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よく晴れた昼下がり、わたしは友人であるユウキくんの元へ出掛けた。何か用があるから行くわけで、決して押し掛けに行く訳じゃない。…きっとユウキくんが嫌そうな顔をするのは何となく予想が出来た。だって、ユウキくんは変なところでマイペースというか気分屋というか。だけど、折れる訳にはいかないんだ。いつもは名前を呼んだって無視されるだけだけど、今日こそはちゃんと答えてもらわなきゃ。

「ユウキくーん」
「…」
「ユウキくん、こんにちは!ねぇ今日暇?」
「…」
「どうせ暇なんでしょ。ねぇちょっと付き合ってくれない?」
「…何で名前さんがここにいるの」

3回目の呼びかけで、部屋からユウキくんの声が聞こえてくる。今日は反応が早い。いつもなら10回名前を呼んだって応えてくれないのに。おかげでわたしは早口でユウキくんの名前を10回言えるようになってしまったわけだけど。今はそんなこと関係ない。

「ユウキくん。ミナモ美術館行かない?」
「意味分かんない。行かねぇよ」
「…いつしか約束してくれたよね?一緒に行ってくれるって」
「約束はしたけど、今日とは聞いてないから行かない」

仮にもそれが年上であるわたしへの言葉遣いと態度だろうか。ユウキくんがわたしを年上と見てくれてるな、なんて感じるの、名前をさん付けで呼ばれることぐらい。それ以外なら生意気な感じも少し意地悪な感じも飽きるほど見てきた。確かに、事前に言ってないわたしもわたしだし、果たして今日絶対ミナモ美術館に行かなければ行けないのかと問われれば、別に大丈夫という返答をするだろう。だけど、だけど何だか今日がいい。今日、ユウキくんと出かけたい気分。

「だって、今日はよく晴れてるからさ。いいでしょ?」
「…はぁ、分かったよ。行けばいいんだろ」

半ば強引な感じだっただろうか。ユウキくんはため息ひとつ吐いて了承してくれた。そのことが嬉しくて小躍りしてしまいそうだけど、抑えて家を出る。彼が出したチルタリスの背に乗れば遠くにあるミナモシティにだってひとっ飛びだ。





彼とミナモ美術館に来ることは、これが2回目だった。暇そうに見えて何かと忙しいユウキくんを誘うことが躊躇われたのもあるがそれ以前に、わたしにユウキくんを誘うことが出来なかったのが大本の理由。数々の絵を二人で見て回って、このあとちょっとお茶でもして帰ろうか?わたしが誘ったんだし、奢るよ。――まるで会話は何処かの恋人たちのようで、デートにでも来ているような感じ。恥ずかしくてくすぐったくて、気分はいいのに多分この感情が邪魔をしたんだ。そういえばさ、と話を変えてきたユウキくんに目線をやると、何だか少し楽しそうな色を浮かべているのが分かる。

「最近ミナモシティでいいお店見つけたからさ、行こうよ」
「あ、うん。いいよ。でもあんまり高いのは嫌だな」
「別に名前さんに奢って欲しいなんて思ってない。自分で払うし、いいよ。何なら、俺が払ってやろうか?」
「いや、それは悪いからいい」
「何で、デートみたいで面白いじゃん」

デート、というたったひとつの単語に反応するわたしはおかしいのだろうか。ううん、大丈夫。顔が赤くなった感じはない。きっと、ユウキくんには気付かれてないはず。行こうぜ、と言われたそれに頷き、わたしたちは歩き出す。確かに今日はよく晴れた日だ。



匿名さんへ


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