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トキワのジムを抜け出そうとしているグリーンを見た。こそこそとあたりの様子を探りながら何処かへ行こうとする姿を見れば、何故かクスリと笑みが溢れてしまう。その光景が日常で平和で、心の中で安心を覚えてしまう。よし、驚かしてやろうと抜け足指し足でグリーンに近づいていく。彼は全く気がついてないみたい。

「グリーン!こんなとこで、何してるの?」
「うわっ名前?!お、驚かすなよ…」

ごめんごめん、と軽くそこは受け流しておいた。ジト…と睨まれたのはきっと、その言葉に大した感情が込もってなかったからだろう。ところでグリーン、何しようとしてたの?と話を変える。その質問がジムを脱走という答え以外にないことを、わたしは分かっているはずなのに。いつかきっと違う理由があることを、何処かで期待してた。

「あー丁度よかった」
「何が?」
「俺さ、今からお前んとこ行こうとしてたんだよ」
「え、何で」

いつも脱走するときの理由で、退屈とか面倒臭いとか、そんなものばかりじゃなかったっけ?それが今日はどうした。わたしに会いに来るつもりだった、なんて。あぁ動悸が激しくなったなんて気のせいに決まってる。

「だってお前、今日誕生日だろ?」
「あ、うん……そうだけど」
「だからさ、何か贈るつもりだったんだけど、予定変更して、何処か連れてってやる!」
「あ、ありがとう」

嬉しいという気持ちより、戸惑いの感情の方が数倍大きい。グリーンがわたしの誕生日を覚えていてくれたこと、すごく嬉しい。グリーンがわたしの誕生日を祝おうとしてくれること、すごく嬉しい。毎年してくれるから、すごく嬉しい。なら、素直に喜べばいいのに。どうしても心が、それを許してくれない。

「何処か行きたい場所あるか?」
「…ケーキ食べたいから、奢ってよ」
「そんなんでいいのかよ」
「だってグリーン仕事中でしょ。長い時間いるような場所には行かない」
「別にいいって」
「わたしがよくないの!」

つい、怒鳴ってしまった。意味わからない。何かしてくれるって言ってるグリーンに怒鳴る理由なんて何処にもないのに。わたし、何が不満なの?何に戸惑ってるの?意味、分からない。

「名前がよくなくても、俺はいいの。いいって言ってんだから、好きなこと言え。何に怒鳴ってんだよ」
「…ごめん」
「もしかして、祝われるの嫌だったとかか?」
「違う、違うのグリーン。ごめん。あ、あのね」

何でか分からない。だけどわたしは、嬉しかったんだ。何度も確認するように、記憶するように、覚えていたいと思えた。ただ、嬉しかったんだ。わたしの意味不明な行動、意味不明な理由。きっとグリーンじゃない誰かなら怒って帰っちゃうかも。だけど、きみは相変わらず優しいよね。訳分からなくても、いつも最後まで聞いてくれる。

「何だそれ、意味わかんね」
「えっと、ごめん」
「まぁいいよ。ほら行こうぜ」

当たり前のように差し出された手を、いつも通りに握って歩き出す。今は、戸惑う気持ちより、嬉しい気持ちの方が大きいよ。きっと、きみが最後までわたしの話を聞いてくれたから。……そう信じておこう。



数えきれないぐらいお世話になってる彼女に贈ります。誕生日おめでとう!これからも、よろしくね。君のこと大好きさ。


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