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昨日のうちに雨は上がったらしく、わたしが起きたのは眩しい太陽の光が目に入ったから。ここ何処だっけ。いつもと違う風景を見て、なんてバカなことを呟いたのだろう。昨日家に入れなかったから、倉間くんの家に泊まった。それでわたしには寝る場所としてソファが与えられた。……女の子に対して、こんな仕打ちってない。昨日起きたケンカを思い出し、深く深くため息を吐いた。

「あーあ。失敗しちゃったなぁ」

まるでこの家の住人のような態度を取ってしまったこと、もう一度謝りたいと強く思う。幼稚園から友だち、という関係を持っていても、所詮は赤の他人。馴れ馴れしい態度を倉間くんが好きじゃないってことくらい、分かってたはずでしょう。なのに、わたしって、ホントばかだ。二度寝をするかのように、もう一度ソファに倒れ込む。覚醒しきった目はなかなか素直に閉じてくれない。なんか、やになっちゃうなぁ。

「おい、いい加減起きろよ」
「ぐえっ」
「あ、悪い」

思わず出てしまった色気の欠片もない呻き声に、当の本人は悪気のなさそうな声を上げた。流石にこれはない。女の子を蹴るなんて。わたしは起きあがると、倉間くんを睨み付けてやった。

「ちょっと、痛いんですけど」
「だって俺サッカー部だし」
「っていうか倉間くん、何でユニフォームなんて着てるの?」
「もう一発蹴られたいか」

朝練だからに決まってるだろう、そんな当たり前のことをも分からないなんて、ホンット名字ってバカだよ。……言わせておけばバカバカと。なんてデリカシーがないの?だけど何でだろう、言い返す気力がなかった。押し黙るようにそのまま言われっぱなしのわたしを、倉間くんは不思議に思ったのか顔を覗き込んでくる。「名字、お前ちゃんと起きた?」……仮にも好きな人だろうに。全然胸も高まらない。頬も赤くならない。わたしなんか今日おかしい。

とりあえずぐずぐずしていると朝練に遅れてしまうから、と言い残し倉間くんは家を出て行った。おばさんは……あ、家の掃除してる。お手伝いとか、必要なのかな。そんな要らない心配をしたあと、寝ているソファの上で体操座りの態勢になる。きっとわたしがいても邪魔なだけだし、今日はお礼を言って帰ろう。

『名字は友だちだって』

昨日偶然聞いてしまった倉間くんの一言に、少しだけショックを受けた。わたしがどう足掻いたって、やっぱり倉間くんからは友だちとしか見られない。倉間くんは、そうとしか見てくれない。もう、どうしたらいいのか分からないや。そもそも、倉間くんを好きでいる自分が最近、自分じゃなくなってるみたい。

そっと握りしめた携帯を見つめ、今忙しい時間だと分かっていても、話したいと思ってしまう。どうしても、この気持ちを曝け出してしまいたい。今日だけ、わがままを言ってもいいだろうか。

「もしもし、茜ちゃん?今日、会えない?」


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