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冷たい風が頬を撫で、わたしの先へと流れていく。ずび、と鼻をすすって真っ黒な空を仰いだ。夜はまだ明けない、あと数分待てば、このミナモシティから見える海の果てから太陽が昇ってくるだろう。新しい年も、あと数分でやってくる。いわゆる初日の出、というやつを見るわけだが、初めての体験で心が躍りそう。あとはここに、一緒に初日の出を見ようと誘って約束して彼が来ればいいだけ。だけど、約束の時間が過ぎ、すでに2時間が経っている。彼がいないのに、独りで日が昇るその瞬間にいたって、何も楽しくないはずなのに。どうしても太陽が見たい、それが今のここに在る意味だろう。そんなことを思いめぐらせていると、声が聞こえた。わたしの名前を呼ぶ、ユウキくんの声。

「ユウキくん!遅いよ」
「ごめん、寝ちゃってさ」
「へぇユウキくんにしては珍しくヘマしたんだね」
「うるさいな」

だけど、不安が消えたのは確かだ。よかった、ドタキャンされなくて。なんて考えているわたしは多分すっごく汚い。自分の呼んだのに、勝手に怒ったり悲しんだり楽しんだり安堵したり。笑えなくなってしまう前に、ここから少し離れよう。

「ユウキくん。まだ少しだけ時間あるからさ、わたし何か飲み物買ってくるね」
「あーうん。俺の分も買ってきてよ」
「もちろん」

財布を手にし、小走りで自動販売機がある場所まで急ぐ。時計を見てみれば、あと少し。思えば東の空も段々明るみ始めてきたのが分かる。さぁ早く買って、ユウキくんと初日の出を眺めようじゃないか。手にしていたのはミックスオレだった。





「はい、ユウキくんどうぞ」
「…名前って、気が利かないね」
「え、何で」
「こんなクソ寒い中、ミックスオレなんて飲みたくないんだけど」

呆れた顔をしながら、わたしからミックスオレを受け取る。そんな文句言うなら、飲まなくてもいいよなんて捻くれた言葉が出そうだけど、きっとユウキくんに何を言っても、「いいよ別に。飲む」と言って聞かないだろう。流石ユウキくん。素直じゃないし頑固だし。そういうきみだから、わたしは初日の出見ようって誘ったのかもしれない。

「あ、ユウキくん。日、昇ってきた」
「まぶし」
「仕方ないよ、太陽だもん」
「…きれいだな」
「うん」

その美しさに魅せられ、言葉なんて出ない。無言のまま、わたしたちは少しの間海の方を見ているだけだった。沈黙を破ったのは、わたし。どうしても、何も言わないこの静かな空間から抜け出したかった。何も言わずに自然を感じるのは好きだけど、大きすぎる自然に飲み込まれそうで、怖いよ。

「ねぇユウキくん。ユウキくん今年は何か目標とかあるの?」
「目標?…、別に、ないけど」
「じゃあ、どうするの」
「…別に。俺のしたいようにするだけ。それだけ」
「ふぅん」

あぁこの人は、自分のこととかちゃんと決めてるんだな。曖昧に思える返答でも、意志がこもってる。わたしはそう感じた。何だか、羨ましくて眩しくて憧れを抱きそうで、ユウキくんが遠いね。まるで太陽みたい、ミナモの海を今出てきたばかりの、大きな太陽。わたしも、そんな風に曖昧だけど、大きくなれるかな。独り言にも似た質問を、ユウキくんはちゃんと聞いていてくれた。「できるよ、名前だし」やっぱり、これも曖昧な返答。わたしだし、って何だろう。でも、元気になれた、気がした。


これからのことは言わないで。
わたしにも、決められるかな。



2012年明けましておめでとう!


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