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残酷なくらい早く時間は過ぎていった。吹雪くんと少し離れた関係へと変わってから早2週間。おはようこんにちわこんばんわ、一緒に行こう一緒に帰ろう、おやすみまたね、と言葉を交わし挨拶を交わすことは何度もあった。だけど、わたしたちを覆っていたのはいつでもぎこちない雰囲気で、これがいつか元通りになれるなんて誰も思っていない。吹雪くんの友人に言われた。「何で仲直りしないんだよ」って。名字さんが誤解していたことは全部説明したし、もういがみ合う必要なんてないよ。…きっと彼は、負い目を感じているからそう言ってるだけ。でも、誤解が解けたとしてもわたしは仲直りなんてするつもりはない。どうせまた同じような苦しみの中に立つことが分かっているのに。吹雪くんが折れてくれるまで、わたしは行動しない。まるで他人が聞けば子供と思えるその理由に、確かに自分でも大人げないとは感じている。だけど、もう自分からなんて無理なの。どうせこの関係を始めたのが吹雪くんからなら、元通りにするのも吹雪くんからしてよ。……終わらせるのも、吹雪くんからにしてよ。


「名字、お前今日バイトだからな」
「知ってますよ」
「だって、何か最近ボーっとしてるし?」
「…先輩って変なところ勘よくて面白いです」


無理矢理、笑った。確かに最近ボーっとしてるかもしれない。いつもなら独りじゃない部屋に一人で過ごし、耐えられるのかと聞かれたら大丈夫と正直答えられない。でも折れる訳にはいかない。耐えなくちゃ、いけない。気を紛らわすようにバイトにも専念してるつもりだし、課題だってちゃんとやってるつもり。誰にも、無理してるとか変だねなんて言わせない。これは、わたしの問題なんだから。





「じゃあ名字、これ運んで」
「分かりました」
「よし、じゃあもうお客さんも少なくなってきたし、これ運んだあと名字は食器洗ってくれるか?」
「はーい」


店長は気のいい人だ。何かあったと分かっていても、「頑張れよ」の一言だけで何の干渉もしてこない。ここが、すごく居心地いい。先輩もいて、気のいい店長がいて、ここがわたしの居場所に――いや、止めよう。きっと、無理なんだから。


「名字、私も手伝おうか?」
「いえ、先輩は表の方お願いします」


やんわり断り、もう残り少ない食器に手をつける。こんな量なのに、先輩は手伝おうだなんて。こんな量なのに、店長は洗ってくれだなんて。みんな、どうかしてるよ。どうして今日に限って、こんなにも仕事量が少ないの?あぁ、苦しい苦しい。頭が痛い。息がしにくい。精神的じゃなくて、本当に。あれ、もしかして、わたし本当に調子悪いの?覚えてないよ、何も。
意識を手放した。


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