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次の日、何故か気分的に図書室へ行こうと思えなかった。大人しく帰ろうと思うけど、足は何処か違う方向へと向かっている。一体、わたしは何処へ行こうとしているのだろうか。辿り着いた先がグランドだから、余計に頭が混乱してしまう。どうして、わたしはここに来たのだろう。その疑問だけが駆けめぐる。

「あ、名前ちゃん。今日は図書室行かないの?」
「うん。どうも気分が向かなくて」

そこで会ったクラスメイトと、小さな立ち話に花を咲かせてしまう。「こんなにも人がグランドに集まって、何かショーでも始まるの?」「え、名前ちゃん知らないの?」「え、何が?」「今日うちのサッカー部が練習試合するから、みんなそれ観に来たんだよ」「へぇ全く知らなかった」突然鳴ったホイッスルの音に、暢気な会話が途切れる。みんなみんな、目線はグランドで走る選手たちに釘付けだ。
かく言う隣に立つ友だちも、どうやら興奮しているようだ。

「きゃー!かっこいいー!」
「雷門、勝ってる?」
「何言ってんの、まだ始まったばかりだから分からないよ」
「勝てそうなの?」
「勝つに決まってるでしょ!何たって、豪炎寺くんがいるんだから」

そう力説する彼女の話を、残念ながらわたしは最後まで聞いていなかった。ボーっと空を眺め、やっぱりあのまま図書室へ行けばよかったなんて後悔が溢れ出す。きっとこの場で言ったら、彼女が「最後まで観て行きなさいよ!」と言って止めるだろう。……もし今勇気を持って図書室に行ったら、昨日の彼に会えるのだろうか。
そういえば、昨日の彼もサッカー部だった気がする。……と言っても名前が思い出せないからどうしようもない。グランドを覗き込み、昨日の彼に似た容姿を探す。見つけられたとき、息を呑んだ。とりあえず、友だちに名前を聞いてみる。

「ねぇあの青い髪の子って誰?」
「え、名前ちゃんが言ってるのって……風丸のこと?」

なんてことだ、この子が男の子を呼び捨てにするなんて。もしかしてクラスメイトなの?と問いかけてみればさらりと言われてしまった。「名前ちゃんのクラスだったと思うけど」……まさか、わたしは昨日自分のクラスメイトとぶつかったのにも関わらず、その子の名前が分からないなんて口走ってしまったのか。失礼だ。

「でも風丸がどうしたの?」
「ん、ちょっと彼に用があるの」
「ふぅん。ま、いっか。この試合が終わったら一緒に話に行こうよ」
「一緒に行ってくれるの?」

少しだけ、この子が優しく頼れる存在だと改めようと思えた。だけど直ぐあとに、「わたしも豪炎寺くんに会いたいしね!」と付け加えなければ、の話だったけど。何だよ、わたしは結局おまけなのか。


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