txt | ナノ

あ、今日も誰もいない。放課後の図書館に、誰もいないその光景は珍しいものではなかった。毎日物好きだねと友人に呆れられるほど、わたしはここに通っている。飽きないの?とかつまらなくない?なんて聞かれることも少なくないが、逆にどうしてそんなふうに飽きたりつまらないなんて感情が浮かんでくるのが分からないよ。いいじゃない、わたしはわたしで好きなことを自由にやってるだけなんだから。……なんてかっこよく決められたら、わたしは自分に自信が持てたのかもしれない。言えるわけ、ないじゃんそんなこと。素直な気持ちも言いたいことも全部押し込めることしか知らないわたしじゃ、独り「わたし」になれる時間を愛しいと感じることしか残されてない。時間なんて忘れて、引き込まれそうな文章に没頭してしまえば、それが「わたし」になれるとき。だけど、本当に時間を忘れてしまうのが悪い癖だってことは重々承知していた。

気が付いたら時計が指す時刻は6時少し前。いけない、こんな時間まで本を読んでいたなんて、また友人に笑われてしまうよ。校庭から聞こえてくるホイッスルの音、校内に響き出すチャイム。全てがすべて、まるでわたしに早くしろ早くしろと言っているみたい。急いでスクールバッグを持ち、図書館をあとにする。しかし、前から来る人影に不覚にも大胆にぶつかってしまった。

「いたっ」
「いって…あ、悪い」
「わ、わたしの方こそ前見てなくて。すみません!」

顔を上げると、見たことある人みたいだった。ただ、名前が浮かんでくる訳じゃないから、何とも言えない。確かサッカー部の人だった気がするが……こちらが言葉を発する前に、相手が口を開く。

「きみ、図書館委員?」
「ち、違います」
「悪い、この本の返し方って分かるかな?」

友だちに返すように頼まれたんだけど、方法分からなくてさ。普段、図書館とか来ないから。…もしよかったら返してくるないか?なるほど、相手の目的がそれだと分かると、何だか複雑な気分。いきなりぶつかってきて、謝りはしたものの、本を返しておいて?そんなパシリみたいなこと、どうしてわたしがしなくちゃいけないの?
だけど彼はわたしに本を押し付けたまま、「急いでるから、悪い。また今度!」と残し行ってしまった。唖然、そして呆然。こんなことってないよ。わたし返しておいてあげるなんて言ってないのに。

受け取った本を自分のバッグに入れ、持って帰ろうと思ったのは、明日また会って彼に押し返してやろうと思ったからだ。きっとわたしは間違ってない。本くらい、自分で返してくださいよ。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -