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暗がりの道路を独り歩くなんて、少し危ない気もしたし、胸が躍るような感じだった。きっとこの気持ちを打ち明けても「バカやろお前」なんて短く言われてしまうだけって言うことは分かっていた。でも、たまにはそういう気分にだって、わたしはなるんだから。
年明けてからのギアステーションには多くの人が佇んでいる。みんなお休みとかじゃないのかなぁなんて思うけど、きっとバトルサブウェイは年中無休なんだろうな。いつ何時、挑戦者が来るのかも分からないんだから。もしかしたら元旦その日いきなり現れるなんて空気の読めない人がこの世界にいるかもしれないんだから。だからそういう人たちに一言言ってやりたい。「少しはここで働く人たちを休ませてあげてはどうですか」って。でも仕事に真面目な上司を持つと、クラウドさんもきっと苦労するんだろう。彼にとっての休みって、いつかな。

「あの、ノボリさん。クラウドさんいますか?」
「あぁ名前さま。クラウドなら少し前に休みに出ていますが」
「あー行き違いになっちゃったか…教えてくれてありがとうございます!」
「お呼び出し致しましょうか?」
「大丈夫です、自分で見つけるんで!」

そうは言ったものの、正直何処にいるかも分からない相手を見つけるなんて面倒臭い。それでもやろうと思えるのは相手がクラウドさんだからかな。あ、あのベンチに腰掛けてるのって、もしかしてクラウドさん?目だけはいいわたしが確認したのは、確かにクラウドさん。近づいてみると、彼は気付いてくれる。

「何や名前。こんなとこで何してんねん」
「えっと、クラウドさんのこと探してました」
「へぇ。で、何?」
「明けましておめでとうございます!」
「…え、それだけなん?」
「…え、それ以外に何があるんですか」

一体クラウドさんはわたしに何を期待していたんだろうか。まぁ、いいか。小さなことは気にせず、「はい、どうぞ」と言ってそれを手渡した。何やこれ、と見てみると、さっき買ったばかりの温かいお汁粉。瞬時にクラウドさんは顔を顰めた。

「何でお汁粉なん?」
「え、だってお正月だし。それに疲れたときは甘いものって言いますよ」
「…せやけど、別に俺欲しいなんて言うてへんで」
「いいじゃないですか!一緒に飲みましょうよ」

そう言ってわたしは自分の分のお汁粉を開け、一口含む。温かいより熱いに近い温度に舌が火傷してしまいそうだけど、甘い味に変わりはない。横でクラウドさんは渋々缶を開けている。どうやら、飲んでくれるみたいで嬉しいな。火傷しないように気を付けてくださいね、と言えば「お前とちゃうで大丈夫や」だって。失礼な。

「甘いわぁ」

ほんのり広がるそれは、気持ちも甘いものにしてしまいそうなほどで。


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