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大人は大変だ。私はまだ子供だから分からない。例えば夏休み、子供には約40日間のお休みが与えられる。だけど大人は少ない。私のお父さんは一週間ぐらいだって。本当に、短いと思った。
だから夏休みの間、一緒に色んなところにいけると思ったのに、それは多分叶いそうにない。

だけどだからこそ、一緒にいる時間を少しでも求めたかった。欲しかった。私だってあなたのこと好きなんだから。たとえ仕事の方が大事でも、今回は連れ出してみせる!





「で、何で夏祭りやねん」
「今日やるからです」
「今日行くモンを何でこの時間に言うんや?!遅すぎや!」
「だってマサキさん仕事終わったの今じゃん」


正直怒られても反省なんてしてない。だってこれはいわゆる死活問題。私もう何日もマサキさんと外に出掛けてない。一緒に何処か行きたい。何処に行く?だから、夏祭りなんだって!文句言わずに、今日くらいいいでしょう?


「何が死活問題や。誰も死なへんて」
「私が死にます。マサキさんの愛に飢えて」
「……名前、何処でそういう言葉覚えてきたん?」
「私だっていつまでも子供じゃないよ」


たとえマサキさんが7つも歳が離れた彼氏だとしても、やっぱりそこにあるのは好きという強い想い。誰かを誰かが想うのと同じだよ。私だって、同じようにマサキさんのこと好きなんだから、だからデートもしたいって思うの。

これに付き合ってくれたら、当分は我が侭言わない、というのを条件に半ば強引な形で夏祭りへ行くことを認めさせた。夏休みが終わってしまったら私もマサキさんの家にお邪魔出来なくなるし、会える日も少なくなる。だからせめて、今日だけは――。





まぁマサキさんと夏祭り行くの?!これはもう浴衣決定ね!お母さんが昔お父さんと夏祭り行ったときに来てた浴衣あるから着て行って!絶対名前に似合うわ!これでマサキさんも瞬殺ねっ!
よくもまぁこんなテンションの上がる母親を持ったことだ。あんまり騒がないでほしいんだけどね。マサキさんと付き合ってるって、お父さんには言ってないし。お母さんにはバレちゃったけど。一応内緒にしておきたい。ただでさえ歳が離れているんだから、何言われるか分かったもんじゃない。


「だけどマサキさん、遅いなぁ」


本当は夏祭りを楽しむって言うより、今日9時から打ち上げれる花火を見に来たんだ。それを見られなかったんのなら、今日祭りに誘った意味がない。でも待ち合わせ10分も遅れてるんだけど。どうなってるんだマサキさん。
もしかして無視されたかな。わいには仕事があるんやーとか。でももうちょっと、仕事より彼女も大事にして欲しい。単に私の我が侭なんだけど。
だけど、不意に後ろから肩を叩かれた。振り向くと、私が待っていたマサキさんが立っている。ちょっとだけ申し訳なさそうに、「遅れてすまへんかった」って。


「…マサキさん…」
「ちょっと抜け出せんかったんや。お、怒っとる?」
「…怒ってません。ただマサキさんが甚平着てるって、何か新鮮で」
「名前も浴衣着てるんやな」
「似合ってる?」
「知らん。わいは知らん」
「え、何でそこ答えてくれないんですか?!」


似合ってなかったかな。お母さん、どうやらマサキさんを浴衣で瞬殺は無理かもしれない。だけど来てくれたことに対して、嬉しさがこみ上げてくる。今日うんと楽しんで、当分は我慢したい。そう自分で決めたんだから。

その後、屋台で私はかき氷を、マサキさんはたこ焼きを買って食べた。一個もらったけどちょっと暑くて舌を火傷してしまった。うん、これもいい思い出だよ。

ときは過ぎ、すでに時刻は9時を指していた。今から花火の打ち上げが始まって、夏休みは明けて、私もマサキさんも普通の生活に戻るんだ。あとでちゃんとお礼言わなきゃだめだよね。我侭に付き合ってもらったんだから。


「名前、あんなぁ」
「はい」
「そのーわいは寂しい思いさせたんか?」
「…え」
「悪いことしたとは思ってんねん。最近名前からの誘い断ってばっかやたし。せやけど別に、迷惑とかちゃうんやで」
「…マサキさん」


私、まだ何も言ってないのに。だけどマサキさんは私の悩みを分かっていたかのように優しく話してくれた。そのことがどうしようもなく嬉しくて、幸せで、涙が出る。いつの間にか打ち上げられていた花火も、前半の方は見逃してしまった。うん、これもきっといい想い出なんだと思う。



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