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そこまで大きくならなかった荷物を抱え、旅に出ようと思う。握りしめた手の手のひらから何となく沸き上がってくるこの気持ちは、頑張ってみようと自分自身を勇気付ける行動。あと一歩踏み出せば、わたしはカノコタウンから1番道路へと足を入れるんだ。期待と不安が混じり、ようやく整理した気持ちを飲み込んで、踏み出そうとしたとき、


「名前!」
「げっ、トウヤくん」
「今何か言った?」


何でもないです、と首を横に振り誤魔化してみた。だけど今持っている荷物を見れば、それが何を意味しているものかなんて、わたしより先に旅立っていったきみには直ぐ分かる。どうしたの、旅に出るの?と物珍しいものを見る目でトウヤくんはわたしを見た。


「うん、そうだよ」
「お前、旅には絶対出ないって言ってなかったっけ?」
「うん、言ってたよ。だけど、変わったの」
「…ふぅん」


何か気にくわなかったのかな。トウヤくんは訝しそうな目で見ている。まぁ、そうだよね。トウヤくんやベル、チェレンが旅だったとき、本当はわたしも旅に出るはずだった。だけど、直前で止めてしまった。その理由は簡単で、怖くて不安だったから。ただ、それだけ。あのときはごめんね、の一言で済ませられないほど、自分を責めていた。みんなで一緒に行こうね、なんて小さな約束を、自分から破って。みんなそのときは赦してくれた感じだってど、わたしはそういう気分になれない。償いとはほど遠いけど、わたし、今ならカノコタウンから旅立てる気がするの。


「トウヤくんが旅から帰ってきて、わたしの知らない話して、少し寂しかったって言うのもあるけど、わたしもトウヤくんたちが見たもの、見てきたいんだ」
「ふーん」
「もしかして怒ってる?」
「全然。気を付けてな」


もう少し引き止めてくれてもよかったのに。自分勝手な気持ちは胸にしまい込み、もう振り向かないで行こうか。きっともう一度振り返ったら、また立ち止まってしまう。だけど、やっぱり、わたしはそれを望んでいた。背後から、「名前!」と声が聞こえる。振り返らざるおえなかった。


「気を付けろよ!」
「…それ、さっきも言ったじゃん」
「じゃあ、早く帰ってこいよ」
「…うん、行ってきます」


何度寂しくなったって、今の言葉を思い出して頑張ります。


ぼくの中に、きみをしまう



企画:花畑さま提出


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