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午後10時、世界中のよい子たちが眠りにつくであろう時間にわたしの携帯の着信音が鳴り響いた。誰なんだろう、と相手を確認して見ると、クラスメイトの吹雪くん。どうして彼がこんな夜遅くに、わたしに電話をしてくるのかが一番の謎だったけど、今はそうも言っていられない。通話ボタンを押すと、「こんばんは、名字さん」と彼の明るい声が聞こえてくる。そういえばわたし、携帯番号を彼に教えて、初めて電話してもらったな。


「こんばんは吹雪くん。どうしたの?」
「ん、別にどうもしてないよ」
「…あ、そうなんだ」


少しだけ、がっかりしたのだろうか。肩を落とし、ため息を吐いていたのは何故だろう。きっと、嬉しかったんだ。吹雪くんがわたしに電話してきてくれるなんて滅多にないことなのに、何となくで電話してきたのかな。心の何処かで理由を求めて、意味が欲しかった。だって理由もないのに、こんな時間電話されても正直迷惑だもの。


「用がないなら、切るよ」
「え、何で。お喋りしようよ」
「意味分かんない。吹雪くん何で電話してきたの?」
「名字さんと話してみたかったんだ」


ぼく、最近眠れなくて。何でだろうね、寂しいのかな。なんて笑って言う吹雪くんの声には少しだけ、涙が滲んでいた。あぁバカみたい。理由とか意味とか、ホントはどうでもよかったのに。ただ吹雪くんが電話してきてくれたこと、話したいって思ってくれたことだけでも十分嬉しかったはずなのに。何をそれ以上にわたしは求めていたの、何が欲しかったの。「ごめん」と一言呟いて、沈黙がわたしと吹雪くんの間を支配した。何も聞かずに、素直に喜べばよかったのにね。


「最近名字さんはちゃんと寝られてるの?」
「んーそうだなぁ…最近はすごく気持ちよく寝てるよ」
「眠れないとき、ないの?」
「そりゃ、あるよ」
「そういうとき、どうやってきみは寝てるの?」


そうか、吹雪くんは最近眠れないんだね。わたしなんかがアドバイス?助言?なんてしたって、あんまり参考になるとは思わない。だけど、それでも吹雪くんはわたしに頼ってきてくれたの?ちょっとだけ、いやかなり、嬉しい。だったら、それに応えられるようなものを、わたしは返さなくちゃいけない。


「毎日、吹雪くんのこと考えて寝てるよ。なんちゃって」
「…へぇ。それは効果ありそうだね」


いい手段が思いつかなかったから、半分冗談で言ってみた。…半分本気だってことを、吹雪くんが気に留めないといいな。だけどそのバカみたいな答えに、相手はくすりと笑ってありがとうと電話を切る。はて、こんなのでよかったのだろうか。まぁ吹雪くんが少しでも安心してくれたら、わたしは何だっていいんだけど


ゆっくりおやすみ
いいゆめ、みれたらいいね



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