txt | ナノ

「倉間くん倉間くん倉間くん倉間くん!!」

お隣さんの家のドアを勢いよく叩き、名前を連呼して叫ぶ。よくこんなにも何度も呼んで、その名前を噛まないなぁと自分で関心するけど、今はそんなところじゃない。寒い、冷たい、風邪引いちゃう!あぁ早くしてよ倉間くん。わたし、このままだと風邪引いちゃうよ…もしそうなったら、倉間くんを呪ってやるんだから。

「倉間くん、倉間くん!」

だけど、何度も名前を呼んだって彼からの応答も、彼が家から出てくるような音も、一切聞こえなかった。流石に無視は酷いんじゃないのかな。インターホンを連打して呼び出してやろうかなんてことも考えたが、気が進まない。それは何だか自分勝手過ぎると思ったし、倉間くんに迷惑だ。おかしいな、今までだったら何の気の迷いもなくお隣さんの家に入り浸っていたのに。やっぱり前とは違うのかな。
お隣さんの名前を連呼するのを止めて30分後、もう一度「倉間くん」と名前を呼んでみた。数分後、タオルで髪を拭きながら、お隣さんが現れた。

「…倉間くん…」
「もしかしてさっきからうるさかったのって、名字が俺呼んでた?」
「うん、ずっと」
「あー悪い。風呂入ってた。何だった?」
「家に入れないから、倉間くんのとこに少しだけ上がらせてください」

なるべく怒らせないように、機嫌を損ねてしまわないように、敬語でそれを頼んでみる。わたしが珍しく敬語だったからだろうか。倉間くんは少しだけ驚いた顔をしたあと、笑った。それはただ優しそうで、わたしは心の何処かで安心していたのかもしれない。

「おばさんまた仕事?」
「うん、」
「仕方ねーな、入れてやるから。そんなとこ座ってねぇで、さっさと立てよ」

不機嫌そうにも聞こえる倉間くんの声に、静かな安心感を覚えた。最近倉間くんと喋っても喧嘩しちゃったり、上手く続かなかったり、落ち込んでしまいそうだったけど、吹っ切れそう。そういえば倉間くんの家に入るのって、何年ぶりなんだろう。思い出さなくていいこ疑問が、頭のな中をスッと通りすぎる。体が徐々に熱くなってきたのは、どうしてだろう。雨はまだまだ、降り止みそうにないみたいだ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -