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寒ささえ感じないほど、自分はこんなにも追いつめられていたのだろうか。雪が降る空を仰いだって見えない聞こえない感じない。五感が全て閉じられたように、わたしの世界が暗くなっていく。いつの間にか意識を手放していたことにも気付いていなかった。目が覚めたとき、そこは白いシーツの敷かれるベッドの上。ここは、何処なんだろう。


「起きたか」
「、あなたは、えっと、誰、ですか?」
「ハチクだ」
「…ハチクさん、ですか」


知らない名前。もう一度口でその名前を呟いてみるけど、やはり知らなかった。ハチク、さん。それが今わたしの目の前にいる人。多分、きっと、わたしを助けてくれた人。少し間の記憶を呼び起こし、少しずつ状況が分かってきた。そういえばわたし、外にいて、それで――あぁそうか。別に助けてくれなくてもよかったんだ。


「おぬし、あのような場所で何をしていた」
「…別に、何も」
「このような気温の中、外にいること自体がおかしいだろう」
「そうですかね」


別に寒いと感じなければ、外にいてもいいじゃないですか。反抗するように強い口調で言い返せばため息が返事をした。何なの、その呆れたような感じ。少しイラッときた。ここにいたくない気持ちがどんどん溢れ、ベッドから出ていこうとする。だけどハチクさんが止めた。腕を掴んで、わたしを睨んでいる。何ですか、と問いかけてみるけど答えは返ってこなかった。ただ無言の圧力。そんな目で見られると、動けなくなって、ベッドから出ようとする足は戻っていく。それを確認してからハチクさんの腕が離れていった。何だろう、さっきの妙な威圧感。少し怖くて、何もできない。


「もう少しだけ寝ていろ」


心配してくれているのか、それとも何なのか。わたしには分からない。本当は放っておいてくれた方がいいのに。構わないでくれた方が嬉しかったのに。何であの寒い中外にいたのかなんて、死にたかったからだ。もうこの世界に飽きてしまった、意味がないと思っていた。だから、独りにして欲しかったのに。


「ハチクさんっていつもそうなんですか。独りにして欲しい人を助けるんですか、声をかけるんですか」
「…独りは、辛いだろう」
「辛くなんかないです。全然、辛くない」
「だがあんなところで死なれても困るんでな、こちらが」


吐き捨てるように言い、彼は部屋を出ていった。あぁ冷たい言葉、冷たい冷たい。だけどさっき引き止めるために掴んだ手は温かかった。普通手が冷たい人は心が温かいなんていうのに、逆なんてそんなの笑えない。それでも、今ここに在る理由があの手だと知ると、もう少し頑張ろうなんて思った。きっと気の迷いよ。


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