txt | ナノ

ロケット団が解散し、行く宛てを失った。自分の生きる術を失ったと言っても過言ではない。悪事を働くことでも、それが生き甲斐なんて馬鹿げていたのだろうか。でも、なくなってしまった。これから何処へ向かおうと思っても、今まで人の命令に生きてきたわたしには決めることができない。上司、とも呼べる彼に今はついていくが、いつ切り離されるのやら。見えない不安に日々怯え、今日も道を無言で歩いていった。あぁいつもと同じ。


「名前、どうしましたか」
「あ、いえ。何でもありません」
「疲れましたか」
「いや、本当に何でもありませんよ」
「…少し休みましょう」


そう言って彼は――ランスさんは、その場に少し腰かけた。何だか不思議な気分だった。ロケット団一冷酷な男とか何とか噂されていた彼が、わたしを心配してくれている。夢かと思い頬を抓るけど、醒めない。目の前にいるランスさんが本物、現実。ロケット団が解散して、ちょっとは丸くなったのか。そんなとんでもなく失礼な質問を聞くほどの勇気はない。


「休まないんですか」
「いえ、あの、ランスさん。…これから、何処に行くんですか?」
「行く宛て、ですか。そんなの、歩いていたら見つかるでしょう」
「ラララランスさん、本当に大丈夫ですか?!」


まるでそれはノープランで歩いていく、と言われているようで怖くなる。ランスさんってこんな人だったっけ。もっと計画性があって、厳しい人じゃなかったっけ。何が、こんなにもランスさんを変えてしまったの?それとも、わたしがおかしいだけ?


「…名前は昔から失礼な物言いをしますね」
「だ、だって何か、」


少しだけ、怖かった。
自分たちの居場所を失ったっていうのに、前をもう見ているランスさんが遠くて、届かなくて、寂しい。またあの場所に戻れるんじゃないかとか、またサカキさまが戻ってきてくださるとか、そんなことばかり考えて立ち止まってる自分がちっぽけに思えて、怖かった。いつか、本当に置いてけぼりにされてしまうかもしれない。ずっと従ってきたランスさんにも。


「…悲しいんですか。あなたらしくない」
「…わたしだって、寂しかったり悲しかったりしますよ。人間ですもん」
「そうですね。そんなあなたが、私には必要なのでしょう」


さぁ、そろそろ行きましょうか。そう言ってランスさんは立ち上がると手を差し出してくれる。まるでわたしを引っ張っていってくれるような、そんな大きな手。握って彼の力に引かれると、そのうちに自分の足で歩けるくらいにまで元気になれた。
はっきり言ってくれるからこそ、分かることがある。ちっぽけな存在のわたしでも、あなたが必要としてくれる、って。だから、生きようって思えた。そんなわたしを、これからも受け容れてくれるあなたはきっと冷酷なんかじゃない。もちろんいつもこんな調子だと流石に狂ってしまう。だけど、たまには、こういう優しさも好きなんです。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -