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「嘘って…何が、ですか」
「言った通りや。大丈夫って名前はん言うてるけど、大丈夫やない」
「どうして、そんなこと言うの」
「名前はん自分の顔見てみ。放っておいたら今にも泣きそうやで」
「…」

食卓には鏡はない、確認なんてできない。人から見れば分かると言うことなのだろうか。全然平気なはずなのに、目頭が熱くなるのを感じてしまう。すごく否定、したくなった。泣きたいなんて嘘だ。だってわたし、大丈夫だもん。慣れてるもん。そんなこと、ソネザキさんに言われたくない。

「名前はんって結構頑固なんやなぁ」
「…だって」
「別にええで。わい余所者やし、気にしんと言いたいこと言えばええねん」
「…だって、」

分からないんだもん。
親が死んで、ぴーぴー泣けばいいの?でももうそんな子供じゃないよ。それに周りからなんて言われるか分からない。怖かった。叔母さんがいい人だってこと知ってる。だけど分からない。本当はわたしのこと厄介者だと思ってるのかもしれない。だから甘えられない、言いたいこと言えない。怖かった。本当は彼となんて過ごさず、家にいて欲しかった。独りにして欲しくなかった。もし彼と過ごしたいなら、彼を家に連れてきてくれたらよかったのに。でも連れてこなかったってことは、それだけ2人きりがいいってことだよね。わたし、何処に行ってもお邪魔虫にしかならない。怖かった。

「言いたいこと言えたなぁ。えらいえらい」
「…、分からないんです。どうしたら楽になれるか」
「そんなん簡単やで。泣けばええんよ。心の底から泣けば、すっきりするで」
「…」

不意にこぼれだしたしずくを涙と呼べたら、きっとわたしは楽になれたんだ。もっと素直に気持ちを打ち明けられていたら、重くならずに済んだんだ。わたしが泣きやむまでソネザキさんはずっと側で頬杖をつきながら窓から見える景色を見ていた。真っ暗な夜にあるのは綺麗なイルミネーションたち。聖夜を祝うのは少し騒がしいくらいのそれを、今だけ目に焼き付けておきたい。2度と、こんな日は訪れないだろう。





クリスマスプレゼントはソネザキさんの食事の材料を買うために失ってしまったけれど、気分はとても明るかった。独りが怖いから、今なら言えるから、隣で手を繋いで寝てくださいと子供みたいなことを言っても、笑って受け容れてくれる。その優しさに包まれて寝れば、明日きっといいことがあると信じてみよう。手から伝わる温もりはあまりにも穏やかだからパパとママに間違えてしまいそう。もう一度会えたらいいのに、なんて言わないけど、でも願ったりしてしまう。
幾年も昔、その夜奇跡が起きたことを覚えながら。


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