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チャンピオンロードでミツル君とバトルした。その話をユウキ君から聞いたとき、心臓が跳ねた気がした。ミツル君とは小さいときからよくお喋りする仲。それだけの関係だけど私の中では弟のような、とても近くの存在。
そんなミツル君がミシロタウンの叔父さんの家を飛び出し、旅に出たと聞いたとき、すごく不安が募っていた。だけど時々ユウキ君からミツル君の話を聞く。「元気だよ」って、いつも教えてくれる。その度に、私の心は安心に覆われていくんだ。


「それで、帰ってくるの?ミツル君は」
「さぁそこまでは知らねぇ」
「バトルしたんでしょ?それから先のことは聞いてないの?」
「そこまで頭が回るかよ。知りたきゃ自分で電話しろって」
「…けち」


電話番号知らないもん。そう言っても、どうせ「知らねぇよそんなこと」って返されるだけ。わかってたから、言わなかった。
こんなにも会いたいのに、会いに行こうとしないのも、私の心の中で本当に会いたいという想いがあるからなのだろうか。分からない。でもどうしても、立ち上がろうとしない。ここでミツル君を待っていたいって思った。

もしミツル君が突然ここに帰ってきたら、私はどんな風に迎えられるだろう。複雑な気分で、何も言えないかもしれない。だけどせめて、「おかえり」って言いたいな。
まさかそんなことを思った次の日に、ミツル君が帰ってくるとは思ってなかったけど。





第一声は「お腹空いた」だ。控えめな正確のミツル君が帰ってきて、おかえりを言う前に放たれてしまったその言葉。私はとりあえず家に上がってもらい、何かを出そうとする。一応ミツル君に聞いてみると短く「ココアがいいな」なんて。喉乾いてるんだったら、まずお茶とかの方がいいと思ったんだけど、折角帰ってきたんだし、ここは彼の思い通りにさせてあげよう。


「だけどミツル君、突然の帰りだったね。っていうか、家には行かなくていいの?」
「お父さんたち、今留守みたいなんだ」
「へぇそれで私の家にきたと?」
「うん」


そっか。タイミングの悪いところで帰ってきたちゃっただね。笑って言うと真剣な顔で言われた。「ココアに砂糖入れ忘れないでね」なんて。どうやらミツル君はこの旅で話の切り替えが上手くなったみたい。早すぎてついていけないけど。
っていうかココアに砂糖入れるなんて甘すぎになるんじゃないのかな…言わないけどそんなこと。


「ミツル君、バトルしたの?」
「何が」
「チャンピオロードでユウキ君とバトルしたって聞いたけど」
「あー」


思い出したように呟く。そういえばユウキ君、勝ったって言ってた。それって要するにミツル君は負けた。もしかして、触れてはいけないところだったのかもしれない。慌てて撤回しようと思ったけど、ミツル君が返したのは予想外に“笑顔”だった。


「そうだんだ。僕、ユウキ君に負けちゃった」
「…何か明るくない?」
「え、ここ暗くなるところなの?」
「だって、負けたんでしょ?」
「うん。でもそれより、もっと強くなりたいって思ったんだ」


一度負けたけど、もう一度戦ってくれる。そう信じてる。僕はもう一度、ユウキ君と戦いたい。そのために、もっともっと強くなりたいって思うんだ。晴れやかに笑い、ミツル君は答える。

少し前までのミツル君とは明らかに違っていた。あの時、ユウキ君に付き添ってもらって初めてラルトスを手にしたときから、君はすでに変わっていたのかもしれない。残されたのは私だけ。だって私はここで、君の帰りを待っていただけなんだから。

でもだからこそ、今私も思ったよ。ミツル君が変わったように、強くなりたいと願うように、私も私じゃない、違う私になりたい。
そしていつかまた、こうやって 笑って話し合えればいいね。
ミツル君の好きな砂糖入りのココアを一緒に飲みながら。



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