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「ゲーセンって言っても、色々あるからなぁ…ねぇ水鳥さんは何して遊ぶの?」
「は、お前本気で遊ぶつもりかよ」
「ええっ、他に何かありました?!」
「…名前、お前ちゃんと倉間と話したほうがいいよ」

かわいそうな人を見るような目で、水鳥さんはわたしを静かに見ていた。そんな目で、見ないでください。口にした自分でも驚くくらい低い声に、水鳥さんは驚きもしない。ただ拳を優しく頭にぶつけ「ばーか」と呟いた。その言葉に込められているのがどんな感情なのか、知らない知りたくもない。だけど胸が張り裂けそうなくらいに苦しかったのは確かだ。

「ちゃんと考えてみろよ」
「…はい」

それだけ残すと、水鳥さんは何処かへ行ってしまった。見えなくなった背中を確認すると、力が抜けていく。少しだけ、怖かったな。わたしがいつまでもいじいじしてるからかな。でも、温かかったのを知っている。
傍にあったユーフォーキャッチャーを見つめ、コインを3枚握りしめた。気晴らしに、あのくまのキーホルダーでもいただこう。だけど普段やらない分、お金はどんどん無駄になっていくだけ。

「名字へたくそだな」
「うわっ、く、倉間くん?!え、なんでここに」
「別に普通に歩いてたらお前見つけたから」
「…ねぇ倉間くん、このくまのやつ取れる?」
「取ってやろうか?」

その代り、今度何か奢れよ。学生には辛い要求をしてきたのも気にならない。わたしは倉間くんにお金を渡し、望みをかけてみた。もし、倉間くんがあのキーホルダーを取ってくれたら、今度はちゃんと想いを伝える、と。勘違いしてるってこと、間違ってるってことをちゃんと言いたい。

「そういえばさ、」
「うん」
「この間お前が神童にやった差し入れ、あれおいしかったぜ」
「…え、食べたんですか」
「神童がみんなで食べようって言うからさ」
「食べて、くれたの」

予想外だった。倉間くんに贈ったはずの差し入れを勘違いされて神童くんに渡されたと思っていたけど…食べて、くれたんだ。奥底から喜びと嬉しさとこみ上げてきて、顔がにやけてしまう。やだ、こんな顔倉間くんに見せたくない。きっと今わたし、すごく気持ち悪いんだから。

「神童もおいしいって言ってたし、お礼言われたんだろ?」
「ううん、言われてないよ」
「は、あいつもらったのに?」
「いいの、そんなことどうでもいいの。あのね倉間くん」
「、何だよ」

お前が真剣な顔すると明日雪になるからやめろ、なんて倉間くんは笑うけど、今そんな冗談を言ってる場合じゃない。わたしだって、真剣になる、なろうと思うよ。好きな人に想いを伝えるときぐらい。

「あのね倉間くん、わたしが好きなのは神童くんじゃないよ」
「…は?」
「えっと、他にいて、それは、あの、誰かというと…」
「…」
「あ、倉間に名字じゃん!見ろよこれ、俺と速水で取ったんだー!みんなで分けようぜ!」

その先の言葉を言う前に、間に入ってきた浜野に遮られてしまった。手にはいっぱいの板チョコを持っている。きっと浜野は浜野でゲームで何か成功したんだろう。わたしは、成功できなかったみたい。続かない言葉を今更無理に言おうと思えなかった。それに倉間くんはもう浜野と会話しちゃってるし…邪魔は、よくない。溜息と少しだけの安心を胸に、わたしは水鳥さんの姿を探す。

「あ、名字!」
「何、倉間くん」
「くまのやつ、取れたからやるよ!」

ほい、と投げられたキーホルダーをうまくキャッチする。手のひらの上にあるそれは、確かにわたしが倉間くんに取ってほしいと願ったやつだった。…そっか、取ってくれたのか。告白はできなかったけど、間違いは伝えられた。少しだけ、心のもやもやが消えた。それでいいじゃないか。


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