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「え、明日クリスマス?!そんなの聞いてないんやけど」
「ソネザキさんが住んでるところはクリスマスじゃないんですか」
「んーあんまり気にしてへんかったわ。仕事忙しかったしなぁ」
「仕事、何されてるんですか?」
「あずかりシステムの管理やけど、分かる?」
「全然分かりません」

クリスマスイブの夜のために叔母さんが用意してくれた料理は当たり前だけどわたし一人分。いきなり現れたソネザキさんの分なんてあるわけがない。買い出しに出掛けるのはいいけれど、わたしは特別料理ができる訳じゃないからソネザキさんに何かを作ってあげられることができない。でも流石と言うべきなのだろうか、ソネザキさんは料理のできる男性だった。わたしが余計な心配をしなくてもよかったんだ。

「せやけど名前はん、お金大丈夫なん?」
「あー気にしないでください。大丈夫なんで」

大丈夫なわけあるか。叔母さんが名前の好きなもの買って良いよ、と渡してくれたお金が全部パーよ。今更それを悔やむことはしない。だって自分からしたことでしょう?きっとこの行為が報われて、来年またいいことがありますように。ただの自己満足から出た行為で誰かを幸せにできるんなら、やればいいだけのこと。

「あ、そういや何で名前はん家に独りおったん?その年でクリスマス一人で過ごすなんて、ここでは普通なん?」
「普通じゃないですよ。叔母さんが今年、彼と過ごすみたいなんでわたしは家でお留守番なんです」
「え、自分親は」
「…」

答えられなかった、いや答えたくなかった。というべきなのか。無言を返せばソネザキさんは空気を上手に読んで、その質問が「してはいけないもの」だということに気付いてくれる。触れて欲しくない場所に触れられ、本当はその場から逃げ出してしまいたかった。でもそんな勇気、どこにもないの。

「親、去年事故で死んだんで、今は叔母さんの家に居候の身です」
「…もしかしてわい、地雷踏んだ?」
「全然気にしてないんで、大丈夫ですよ」

あぁホント、わたしってなんて卑怯なんだろう。なんて醜いんだろう。でも、当然の話でしょう。いきなり我が家にやって来た人に、不安なんて打ち明けられるわけない。にこりと笑っていれば、大丈夫なんだから。だけどソネザキさんの難しい顔は晴れない。クリスマスにそんな顔していたらプレゼントもらい損ねますよ、笑っても空気は明るくならない。もしかして地雷を踏んだのはわたしの方かもしれない。





会話の続かない夕食、穴があるなら潜ってそのまま一生出て来たくない。そんな気持ちでいっぱいだった。やっぱり地雷を踏んだのはわたしだ。こんな重く暗い空気にするつもりなんてなかった。ただ気まずい雰囲気になるくらいなら、笑えばいいと思っただけなのに。それが逆効果になるなんて、誰が予想したことだろう。ソネザキさんは喋ろうとしないし、もちろんわたしも喋ろうなんて思わない。こんなんじゃ寝るときまで会話のない時間を過ごすのだろうか。気付いたとき、ソネザキさんは自分の分を食べきってしまっていた。なら違う部屋にでも行って、お互い自分の空気で部屋を満たし、自分のしたいように過ごしましょうよ。折角の、クリスマスイヴだし。独りなんて慣れているんだから、わたしは大丈夫。だけどその提案は言葉にならず、代わりにソネザキさんが声を発した。「嘘やん」何が嘘なの、分からない気持ちを隠せずそれを素直に顔に表すと、今度はその静かな目でわたしを見据え、言った。

「大丈夫なんて、嘘やん」


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