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「ここどこなん?」
「地球です」
「んなこと分かってんねん。何処や、って聞いとるの」
「…わたしの家です」
「わいが聞きたいのそないなことやないんやけど…もうええわ」

諦めたようにため息をひとつ吐き、その場で辺りを見渡す。そんなじろじろ見たって、わたしの部屋には珍しいと思えるものなんてひとつもないはず。だけどいきなり現れたこの人に注意できるほど、わたしに度胸はなかった。ただ沈黙が部屋を支配する中、口を開いたのは相手だった。そういえば名前なんて言うん?って、それはこっちの台詞なんじゃないのだろうか。

「…聞く前に、名乗ってくださいよ」
「せやな。わいソネザキマサキ」
「名字名前です。あなたはどうしてわたしの部屋にいたんですか?不法侵入者なんですか?」
「わいも知らへんわ。何でわいここにおるん?」
「わたしが知りたいこと聞き返さないでくださいよ」

どうもこの、マサキさんとはやりにくい。さっきは落ち込んだように見せて、でも今は全然そんな気がしない。感情豊か、それとも臨機応変なのか、わたしにはよく分からなかった。小さい頃から名前はあんまり笑わないわね、って言われてきたけど、ちょっと他の人より大人なだけの話。そんなことより、今はこの人をどうするか、が問題。

「ソネザキさん、が住んでるのは何処なんですか?」
「ハナダシティの外れの岬やけど」
「…ごめんなさい、理解不能です」
「せやから、ハナダシティの」
「いえ言い直せって意味じゃなくて、そんな場所、日本にはありませんよ」

いくら社会科のテストが毎回赤点ぎりぎりだからといって、日本に存在する都道府県ぐらいは把握できている。逆に聞き返したくなるのは、そのハナダシティっていうのは何処にあるんですか、ということ。だけどきっとわたしには理解できないと思ったから諦めた。窓から見える寒そうな朝を見つめ、今日がクリスマスイヴだということにようやく気付いた。今頃叔母さんたちは楽しく過ごしているだろうか。本当は他人のことじゃなくて、今目の前にある問題をどうにかしなきゃいけないのに。

「とりあえずソネザキさん、どうしますか」
「ここが何処かわからへんからなぁ、どうしようもないわぁ」
「少しの間はこの家にいても大丈夫なので」
「え、それあかんとちゃう?」
「全然問題ありません。今この家にわたし独りなんです」

そんな風にかっこつけたって、何にもないのに。結局はその「独り」が寂しいだけ。クリスマスに独りなんて、そんなの嫌だ。


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