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「うわぁ本格的に降り出してきたよ…折り畳み置きっぱなしでよかったぁ」

雨がざぁざぁと降る中で、わたしの独り言はきれいに消えていった。少し前置き傘をそのまま放置していたのが正解だったらしい。普通の傘と比べれば幾分か小さいそれも、ないよりはマシと思えば気分が楽になる。途中、不機嫌そうな顔の水鳥さんに会ったけど、今は何だか怖くない。そういえば帰り道に誰かと帰るなんて、久しぶりかも。温かい気持ちに覆われたと思えば直ぐに身体が硬直する。全ての原因は、水鳥さんの「あ、あそこにいるのって倉間じゃね?」の言葉。一言が余計なんですよ水鳥さん。

「何だあいつら…浜野と速水もいるじゃん。3人で帰ってんのか」
「あれ、でも、倉間くんの行く方向、帰り道じゃない」

よく見ると、同じマンションに住むはずのお隣さんは、マンションとは逆方向へと進んでいた。帰り道、3人で家に帰る様子がないということは、この後誰かの家にでも寄るのだろうか。向かっているものが分からないから、何とも言えないけど、とりあえず水鳥さんの目がいつもより輝いていたのは確かだった。おい名前、つけるぞ。なんて少しだけ予想できた自分が悲しいよ。





「3人とも、何処まで行くんだろ…水鳥さん、分かります?」
「知らねぇよ」
「…っていうか帰りません?」
「倉間が今から何処行くか、知りたくねぇの?」

興味津々な水鳥さんには申し訳ないが、倉間くんが何処に行こうとわたしには関係ない。それが一番の本音だった。でも今の状況でそのことを口にするのはあまりにも無謀すぎる。撃たれるくらいじゃ済みそうにないと思ったから止めておいた。
だけど今日は週末、わたし日頃の疲れたっぷり寝て癒したいのに……。

「あーもうめんどくせっ、直接聞きに行くぞ!」
「えええ、それ一番嫌なの…って水鳥さん早い!勝手に行かないで!」

だけど特別運動が得意な訳でもないわたしの足じゃ、水鳥さんには追いつけなかった。少し先で、「お前ら今から何処に行くんだよ」とよく通る声で質問しているのが聞こえる。あぁああ穴があったら潜りたい。だけどどうしても、追いかけない訳にはいかなかった。変なところで律儀な自分を、どう思うのだろうか。

「ありゃー瀬戸に名字?何でお前らこんなとこにいるの?」
「え、あの、浜野たちつけてました…」
「悪趣味ですね」
「別に俺たちゲーセン行こうとしてただけだけど〜?今日雨で部活なしだし。っていうかついでだし、2人も一緒に遊んでかん?」

普通の男子中学生の答えだ。わたしと水鳥さんはさっきまで何をしていたんだろう。しかもやっぱり“一緒に遊ぶ”みたいな流れになるんですね。あぁ穴があったら本当に潜りたい。だけど嫌じゃなかったのは確かだ。


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