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起きたとき、時刻は8時を指していた。時計を見ても尚、ピンと来ない。きっとそれは今日が休みだからだと思う。その代わり、昨日夜遅くまで働いた。
眠い。その思いだけが頭を巡る。だけど、1階から漂ってきた匂いを確かめると、起きずにはいられなかった。そうだ。朝ご飯。


「…、お前、ほんま朝ご飯だけは食べる奴やな」
「おはようマサキ…ねむい」
「昨日何時やったん?」
「…4時」
「うわぉそれ3時間しか寝てへんやん。どうりで起きてこうへん訳や」
「マサキは何時?」
「悪いけど昨日は1時に寝たわ」
「うんいーよ。遅かったの私だし」


マサキとそんな会話をしながら、彼は「何にする?」と問いかけてくる。短く、トーストとだけ答えて置いた。朝の日差しが、未だ私の目には辛い。


「バターは自分で頼むで」
「けち」
「あのな、わいはお前のおかんとちゃうんや。それに今日仕事あるし、そろそろ準備しなあかん」
「私今日休み」
「じゃあゆっくり寝たらええやん」


差し出されたトーストを一口かじり、彼が出してくれたコーヒーを一口飲む。むむ、また砂糖入れてない。私は加糖がいいっていつも言ってるのに…。ブラック飲めなくて悪いな本当に。心の中でこぼれる愚痴をふき取り、目の前に置かれている朝食に足りない何かに気付いた。


「マサキ、みそ汁」
「………」
「マサキ、みそ汁」
「………」
「まさ、」
「3回も言わんでええわ!何でや。誤魔化そう思ったのに、そういうところにだけは気付くんやなお前は…」
「だって、好きなんだもん」


それでも一応みそ汁をお椀に注ぎ、私に渡してくれた。
これが日課。朝には必ず、マサキの作ってくれたみそ汁を飲んで、私は仕事へと向かう。元々朝には弱い私。朝ご飯だけはマサキに任してしまっている。


「お前ほんま好きやな」
「だってマサキの愛情入りみそ汁ですよーこれで毎日頑張ってるんですー」
「愛情なんて入ってへんわ!気味悪いこと言うなや…」
「え、入ってないんですかー」


確かにね。今のは軽い冗談だったけど…別にマジになって否定してくれなくても良かったのに。これ飲んで頑張ってるのは本当のことだよ。

そんなこと思ったら、少しだけ不安になってきた。マサキとは婚約者としての間柄で、同居もこの通りしている。だけどさ、結婚いつするんですか。
今はお互いに仕事があるし、もうちょっと落ち着いてからなんて話になってるけど、そんなことで結婚できるのかな。仕事にのめり込むぞ私は。はまると中々出てこない性格ですよ?

もしかして私って、すごく我が侭な嫁だったりしますか。実は飽きてきたとか、もう一緒にいたくないとか。
そのうちこの同居という状況も危うくなってきたりするの?


「あの、マサキ」
「ん、なに?」
「えっと、いつも迷惑かけてごめんね。ありがとう」
「名前、お前どうしたんや?」
「…その嫌われたくなかったんで」
「誰も嫌ってへんわ!」


そう言ってくれて、すっと不安は消えていった。大丈夫、と自分に言い聞かせて、落ち着かせる。
不思議そうな顔をしているマサキに笑顔で返し、何もなかったように振る舞う。ちょっと寂しくなっただけだよ、と適当な理由を付け足して。
だけど、結局はマサキにはお見通し。やっぱりずっと一緒にいるだけある。

食器を流しに出そうと立ち上がる私を後ろからそっと抱きしめ、小さく「もう少しや。せやからそれまで待っとって」と呟く。
ありがとう。小さなことで悩むのは、きっと私に合っていない。先はまだ遠いかもしれないけど、きっと上手くいくって信じてる。あなたといられる毎日を思うと、私はとても幸せだから。



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