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私の彼はカントー地方ではちょっぴり有名なジムリーダー。
トキワシティにあるトキワジムのジムリーダーを勤めていて、その若さでジムリーダーを勤めている事からすごいと評判で、そのバトルセンスにも光るものがあり、その上イケメンだから女の子にモテモテ。
…と、この間フレンドリーショップで立ち読みしたジムリーダー特集が載っていた雑誌に、そう書いてあった。
確かに彼は見た目はその雑誌に書いてある通りの人間なのだが、本来の彼の姿はそんな絵に描いたような姿じゃない。
だって本当の彼はとても心配性なお母さんみたいな感じだし、所々バカっぽい所がある。だってほら、今私の手には私のものではないポケギアが握られていて、そのポケギアは言うまでもなくグリーンの物なんだけど。どうやら昨日私のところに来たついでに、忘れていった品物らしい。本当にバカだと思う。
今頃あるはずの物が手元に無くて困ってるんじゃないだろうか、とその手に握られたポケギアを見つめていたら、着信を知らせる機械音と振動。
はあ、と呆れたように溜め息をついてから手の中で震えるポケギアのボタンを押した。

「もしもし、」
「あっ!リーダーのポケギア拾ってくれた人ですね!」
「そうですけどー」

着信相手は、トキワジムのジムトレーナーを勤めているヤスタカだった。というか声聞いて私だって気付かないのかな。
さすがグリーンの元に勤めているだけあって、ヤスタカも相当バカというか何と言うか。

「女の子ですよね!良かったですねリーダー!女の子が拾ってくれたみたいですよ!」

そのリーダーの彼女が電話の相手だっていうのに、何を抜かしてやがるんだコイツは。
そのヤスタカの後ろで、まあ男よりは女の子に拾ってもらった方がいい、とか抜かしているグリーンの声が聞こえる。
グリーンさん好みだといいですね、とかなんか無性に腹立たしいんだけど、ちょっと面白いからもう少しこのお芝居に付き合ってもらおうと思う。

「あのー、このポケギアどこに届けたらいいですか?」
「えーっと、そのポケギアってどこで拾いましたか?」
「トキワシティの近くで」
「そうですか!じゃあ今って何処に居ますか?」
「マサラタウンの近くです」
「あ、じゃあ今から取りに行くんで時間ありますか?」
「…ねえヤスタカくん。そろそろ気付いてくれない?」
「えっ?あっ、あっれ、」
「確かに私はグリーンさん好みの女の子ですけどー」
「あ、えと、あの、その…」

その声色を聞いてるだけで、ヤスタカの表情が今どんなものになっているかが想像つく。
焦ったように言葉を吃らせるヤスタカの様子が可笑しい事に気付いたのか、ヤスタカの後ろから聞こえてくるどうしたんだよ、というグリーンの声。

「あ、えと…リーダーに代わりますか…?」
「うん、代わって」

なんなんだよ、という不思議がるグリーンの声と、苦笑いを浮かべているのだろうヤスタカの声。ヤスタカは今、生きた心地がしてないかもしれない。

「もしもし?」
「ボンジュール、グリーン」
「………は、えっ?お前、まさか名前か…?」
「いくらモテモテだからって浮気は良くないと思うな」
「や、さっきのは…つーか浮気してねえだろ!」
「しようとしてた」
「してねえよ!」
「じゃあさっきのは」
「アレはだから、男なら仕方ないっつーかほら、」
「くたばればいいと思うよ」
「怖い事言うなよ!つーかなんで名前が俺のポケギア持ってるんだよ?」
「ヒント、昨日」
「…あー、なるほど」
「グリーンってバカだよね」
「すみませんでした」

まあ素直に謝ったから、さっきの事は水に流してあげよう。
というか、他人のポケギアで長電話とかヤスタカが可哀相だ。ただでさえ生きた心地がしてないだろうっていうのに。

「今日は忙しい?」
「や、そうでもない」
「じゃあいつも通りヒマしてるんだね」
「ヒマとか言うな」
「ヒマしてんでしょ」
「すっげえヒマ」
「ヒマなんじゃん」
「あ、やっぱ忙しい」
「どっちなの。っていうか何に忙しいの」
「名前との電話」

コイツ本当にバカじゃないだろうか。いやバカなんだろう。
まあそんなバカっぽい所を含めたグリーンが好きなんだけど、もしかしたらそんな私が1番バカなのかもしれない。

「グリーンって、本当バカ」
「名前も相当な」
「うるさいな。バカじゃなきゃグリーンとなんて付き合ってらんないよ」
「お前自分の男にそういう事言うか?フツー」
「だってそうでしょ」
「まあそうだけど」

電話越しに聞こえる渇いたようなグリーンの笑い声。
バカだバカだと言いながらもその声を聞いていると、グリーンとは昨日も会ったばかりなのになんだか無性に会いたくなってしまって、人ってのは欲張りだなあ、とぼんやりと思った。

「なあ名前、」
「ん、なに?」
「俺は今ポケギアが手元になくて非常に困ってるんだ」
「うん知ってる」
「届けに来てくれるよな?」
「超めんどくさい」
「お前な…気付けよ。名前に会いたくなった口実って」

ねえこの会話って、ヤスタカに聞かれてるんじゃないの。
それを考えたら非常に恥ずかしくなったんだけど、今はグリーンと同じ事を思っていたことの嬉しさの方が勝った。
生憎だけど私の足はもう、グリーンにそう言われる前から動いていたんだよ。

「……グリーン、かゆい」
「そんな俺が好きなんだろ?」
「ウザいよグリーン。分かってること聞かないで」

本人を目の前にしたら絶対に言えない、こんなこと。
電話越しだから顔が見えないだけまだいいけど、自分が吐いた言葉に徐々に徐々に恥ずかしさが込み上げてくる。

「可愛いなお前」
「うるさい。もう黙ってよ」
「……………」
「黙んないでよ!」
「どっちなんだっつーの」
「ね、なんかいる?」
「あーコーヒー飲みたい。ブラックで。あったけえやつな」
「お菓子も買ってこー」
「長居するつもりだな」
「え、ダメなの?」
「いやいいけど」
「皆は?」

おいお前ら、なんかいるか?というグリーンの声に、ジムトレーナー達が欲しいものを答えていく。ヤスタカの声も聞こえてきたけど、これヤスタカのポケギアだし長電話してるし、仕方ないからさっきの事は忘れてあげようと思う。

「気をつけて来いよな」
「分かったよお母さん」
「誰がお母さんだ」
「グリーンしかいないでしょ」
「…気をつけて来なさいね」
「非常に気持ち悪い。3点」
「厳しいなおい」

他愛のない話でも、どれだけくだらない話でも、その声を聞けば聞くほど会いたい気持ちが強くなって、トキワシティへ向かう足が早くなる。
草村で待ち受けてるトレーナーさんには構っていられない。

「…なあ名前、」
「ん、なーに」
「…愛してる」

面と向かって言われるより恥ずかしい気がしたのは、きっとこの会話はジムトレーナー達につつぬけなんだろうと思ったから。電話越しだからグリーンの声が涼しげな声に聞こえるんだけど、ねえグリーン、アンタ今顔が真っ赤でしょう。
その顔を見てやりたくて、思わず私は小走りになる。
普段あまり聞けない言葉がグリーンの口から聞けたのは、グリーンがポケギアを忘れるっていうバカな事をしてくれたおかげ。ありがとう、グリーン。…と、このポケギアの持ち主のヤスタカにも感謝しておこうか。



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サキさん宅の1万打フリリクから頂きました、ほのぼのグリーンさんです
もう読んでる間、にやけが止まりませんでした
素敵なグリーンさんをありがとうございます!


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