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あのユウキくんが泣いている姿を見た。いや正確に言うならば泣いた姿ではなく、濡れた横顔だ。どうしてタオルで拭かないのだろうと、どうしてその場に立たずんだままなのだろうかと。疑問を抱きながら、ユウキくんにかけた言葉は「何してるの?」とぶっきらぼうで優しくない言い方。言ってしまったあとに後悔し、自分が情けなく思えてきた。だけどユウキくんは振り返ると弱々しい声で答えてくれた。「分からないけど、泣けるんだ」と。意味わかんないよ。


「悲しいの?痛いの?苦しいの?」
「…わかんね」
「じゃあどうして?」


きみ自身が答えを見つけなきゃ、私はどうしたらいいのか分かんないよ。不意に熱くなる目頭は、涙の流れる予告だと知る。溢れて止まらなくなり、いつの間にかユウキくん以上に顔を濡らしていたのは私だった。ユウキくんはそれを見て、少しだけ笑ってくれる。


「…名前が泣くことじゃないだろ」
「っ、だって、ユウキくんが泣くから」
「俺が悪いのかよ」


そう言ったユウキくんの言葉も、さっき以上に濡れていた。いつもの温もりが愛しくて、お互いに求めあったけど涙が止まることはない。だけど、泣きたいときに思いっきり泣いてしまえばいいんだよ。ユウキくんも私も、声を押し殺してただ自然の摂理に従うように。慟哭は止まない。
だけど他の人からは泣いているようには見えず、ただ濡れている様子が写るんだろう。


「…ユウキくん、風邪引いちゃう」
「…名前とならいいよ」


ほら、雨の匂いが香っているよ。


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