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数ヶ月ぶりに我が家へと押し掛けてきた“彼”はいつもと変わらない笑顔で、変わらない言葉で「ただいまー」と言った。ただいま、なんて言うけど、決してここが彼――ミナキさんの家ではない。正確に言うならば、ミナキさんの友人である私の家。同居したこととかはまぁ数週間だけあったけど、それは宿を探していた彼を泊めてあげただけ。それからというもの、ただでものを食べさせてもらえるなんて勘違いされてしまったらしく、彼はよく私の家に来る。今日も大方、そういう理由だろう。お腹空いた?と聞いてみれば、「君の料理が食べたいよ」なんて。ホンット口だけは上手だ。


「それで、今日はどうですか。ストーカーの方」
「ストーカーと言うな!スイクンハンターと言え!」
「…どっちにしろ追いかけ回してるんでしょう?」
「…まぁいい。その話ならじっくり話してやろう」


何が話してやろう、だよ。いつからあなたは私を上から目線で見られる身分になったんだ。だったら私だって、ご飯を食わせてやろう、何ですけど。別にそんな小さなことで怒ったりなんかしない。はぁ、とため息でそれを代弁したけど、ミナキさんには届いてない。どうせ私のひとつひとつの行動なんて見てないんだから。


「でもあんまり無茶とかしないで下さいよ」
「何だ、心配してくれるのか?」
「今ので心配する気、一気に失せましたので大丈夫です」
「相変わらず辛口だな名前くんは!」


そんな何処かのお爺さんみたいにわっはっはと笑わなくてもいいのに…とりあえずお茶碗とお味噌汁を彼の前に置き、今日のおかずをもう一度温めようと立ち上がると、手を捕まれる。振り返ると、今までの少しふざけた雰囲気とはかなり離れた儚い表情のミナキさんが私を見ていた。「どうしたんですか」と聞く声は震えてしまう。何だかこんなミナキさん、見てるだけで緊張して心臓の鼓動が激しい。苦しいよ。


「会いたかったよ」


私もですよ、とは言わない。その代わりに繋いだ手に力を込めた。出来ればこのままここにいて欲しい。とは言わないけど。



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