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真剣に料理したのはいつが最後だっただろう。思えば最近、料理なんてしてない。昔その昔、サッカーで遊んでいた倉間くんを見て、お母さんと差し入れを作ったなぁ。あの時はクッキーなんて可愛らしいもの作ったけど、それは殆どお母さんの力によるもので、私は形を作っただけ。でも今回はそうはいかない。中2、この年になって本気で倉間くんに差し入れをしようとしています。あぁ料理だけは自信を持ちたかった。神童くんは貰うだけでも嬉しいモンだ、なんて言ってたけど倉間くんもそう受け取ってくれるとは限らないよね。だって倉間くんだし。

「はぁ、疲れたなぁ…」
「名前、あんた珍しいわね。レモンの蜂蜜付けだなんて…」
「んーちょっと差し入れしようかなぁと」
「倉間くんに?!」

何でうちの母親は変なところで勘がいいんだろう。少しだけイラッときたのを抑え、違うよとだけ答えておく。こんなところで肯定なんてしたら、後で何言われるか分かったもんじゃない。冷やかしとか、そういうの自分がやるのは好きだけど、やられたくはない。結局は自己中心な考え方の元の意見だ。
そんなとき、ベランダの方から大きな声が聞こえてきた。一瞬にして体が固まる。倉間くんの声。「名字ー!」って、叫んでる。

「あれ倉間くんじゃない?名前呼ばれてるんじゃない?」
「そそそそうみたいだねっ」
「あ、教科書貸してとかじゃない?学校に忘れちゃったから」
「知らないよそんなこと」

いけない、お母さんの目が何かニヤけているように見える。これは避難しなくちゃ、何か言われる。私は急いでサンダルを履き、ベランダに出てみた。待ちくたびれたように少し不機嫌な顔をして、倉間くんは手摺りに足をかけ、私を見ていた。うわぁ何をこの人怒ってるんだ。私そんな遅れてないよ。

「えーとこんばんは倉間くん。どうしたの?教科書忘れたから貸して欲しいの?」
「ちげぇよ」
「じゃあ、何?」
「お前今日神童と何話してたんだよ」
「…はい?」

何でこの人今日私が神童くんと話してたって知ってるんだろう。いやそれ以前に何そんな不機嫌な顔してるの。っていうか何でそんなこと聞くの?
溢れだしては止まらない疑問を、ひとつひとつ彼に投げかける時間と余裕は私にはなかった。答えられないまま、無言だけを返してしまう。いや正確に言うなら、答え方が分からないと言った方がいいだろう。何をどうやって答えればいいの。解答用紙よこせ。

「えっと、差し入れもらったら嬉しいかって聞いてたの」
「…差し入れ?」
「え、う、うん。あー、倉間くんには関係ないから!だから、気にすることじゃないよ!」
「………」

じゃあね、と短く残し、私は部屋の中に戻っていった。倉間くんからその後呼びかけられたりはしなかった。少しだけ安堵の息を漏らし、後から激しく波打つ動機に気持ちが追いつかない。「倉間くんにあげる差し入れだよ」なんて口を滑らせなくてよかった。あぁでもちょっと話すだけでこんな状況って、私明日差し入れ、本人に直接渡せるかなぁ。…あ、茜ちゃんに頼めばいいんじゃん。


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