txt | ナノ

何かされる、と直感でそう感じた。だから逃げなきゃって思ったのに、彼の強い力にそれは意味のないものへと変わってしまう。掴まれた手首が痛くて、熱い。どうしてそんな強いの?痛いの?熱いの?分からないよ、吹雪くん。だけどきっと、わたしが発した言葉に対する彼の答えが全てなんだ。「僕はそう簡単に別れてあげないよ」なんて。だったら最初からもっと違った質問をしていればよかったんだ。「じゃあ、どうしてわたしなの」って。そうすれば吹雪くんだってどう返せばいいのか迷ってくれたはず。分からないよ、と戸惑ってくれたはず。そしたら、その間に逃げれたんだ。こんなことばかり考えてしまうのは、わたしがバカで弱くて卑怯だから。そんなこと知ってることだからどうでもいいの。でもね、吹雪くん。きみも、きっと、わたしと同じなんだよ。本当はきみにきちんと本音をぶつけられるような関係がいいなぁなんて思えたけど、今更無理に決まってる。だって、わたしが何かを言おうとしても、きみが全部遮ってしまうんだもの。今日も変わらない彼の柔らかい感触がわたしを包んでいく。塞がれた唇から漏れそうだったのは、一体どんな言葉だったのか。





痛い痛いよ吹雪くん。何度そう呼び掛けたって、彼は答えてくれない。涙で濡れた目じゃ、彼の姿をちゃんと捉えることができない。吹雪くん、吹雪くん。止めてよ、お願い、止まって欲しい。もう一度だけでいいから、話し合おう?そんな言葉も、届かない。言えない。痛いよ苦しいよ。こんな辛いだけの行為、わたしは知らない。今まで、後ろめたい気持ちはあっても、彼との触れ合いを本気で嫌だった訳じゃない。だから今まで、やってこれたのかな。でも、もう本当に、無理。好きなのに、好きなのに言えないよ。

無意識に思い描いたものが、答えだったのかもしれない。好きなのに、好きなのにね。そう、わたしは吹雪くんのこと、好きなのに。そうやって素直に言えたらよかったのにね。でも吹雪くんも吹雪くんだよ。ねぇ、ねぇ答えてよ。


「…ごめん、名前」
「…」


聞こえたのはやっぱり彼の苦しそうな声。辛いのはお互い様、なのに悪いのは全部わたしたちの性格なんて。もう、どうしようも出来ないかもね。明日目覚めたとき、世界が終わっていればいいのにな。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -