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「ユウキくん、じゃんけんしよう?負けたら相手のお願いひとつ聞くってことで」
「意味わかりません先輩」

何突拍子のないこと言い出しているんだこの人は、という目付きでユウキくんが私を見る。ええぃ先輩命令だじゃんけんしろ、じゃないと今度から君の苦手な英語教えてやんないよ?と半分脅しをきかせてユウキくんに詰め寄った。この時、自分の運の強さを何度も神様に感謝した。じゃあ、一日私の言うこと聞くってことで!約束を一方的に押し付け、彼の家をあとにした。最初と言ってること違うだなんて、そんなの気のせい気のせい!





「さぁユウキくん。私とデートしましょ」
「嫌です。学校帰りにどこ行くって言うんですか。しかも一昨日行ったでしょう。嫌です、絶対嫌です」
「そんな嫌って3回も言わなくても…」

まさかここまで拒絶されるなんて。しかも今即答だった。どうしてそんなにも嫌がるの。私のこと、嫌いになった?本音の入り混じったその質問にユウキくんが少し怯む。その隙に彼の体を引き寄せ、抱き締めた。自分からこんなことするなんて、私も成長したなぁ。それほど意味の込められていない行動に、面白いくらいユウキくんは慌てる。その反応が楽しくて、私の遊び心は止まらない。ねぇユウキくん、好きって言ってみて。そっと彼の耳元で囁いた。

「ど、どうしたんですか。今日先輩何か変ですよ」
「別にいつも通りだよ。ねぇ言ってよ」
「…す、好きですよ」

あぁユウキくんの言葉が頭の中を、胸の中を駆け巡っていく。くすぐったくて、だけど暖かくて嬉しい。こんなこといちいち言うのは恥ずかしいかもしれない。私も少しだけ、恥ずかしかった。だからいちいち言わなくてもいいように、私たち結婚しちゃわない?あぁ流石にこれを本気にはしないだろう。だって私たちまだ学生だ。

「え、結婚、ですか」
「え、うん。そうすれば、愛を形にできるでしょう?」
「け、けけけ結婚なんて、早いですよ!俺たちまだ学生ですよ!」
「いや、それはよく知ってるけど」

あれ、なんだこの反応。顔を真っ赤に染め、おどおどしたユウキくんはまるで今の話を本気にしたみたいだった。いやいや、いつも私が言うことを冷めた一言で一刀両断するユウキくんが、あり得ない。だけどやっぱり様子を見ていると、冗談として受け取ったとは考えられない。なんだかこちらまで変な罪悪感が沸いてくる。

「えっとユウキくん?今の冗談だからね。ちょっとからかっただけだよ」
「…え?」
「いやユウキくん、本気にし過ぎ」

次の瞬間、冷めた目が私を襲った。ふざけるのもいい加減にしてください。何か俺一人バカみたいじゃないですか。なんて、そんな言い方されたら、まるで結婚を期待してたのかなんて思っちゃうじゃない。だけど多分今ユウキくんはすごく怒ってる。軽い気持ちで聞いたら、もっと機嫌を損ねてしまう。ため息をひとつ吐いて、少しだけ後悔した。
こんなことになるんだったら冗談じゃなくて、本気で結婚の話すればよかった。…なんてね。



あんこさんへ


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