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※吹雪視点


今から自己紹介しようとしてるんだぜ?帰るなんて言うなよ。せめて飯食って、ちょっと遊んでから帰れよ。誘いに乗ったくせに、ノリ悪いぞ。僕を合コンに誘ってくれた彼は、当たり前とも言える文句を言ってきた。その言葉に、名前ちゃんの手を引く自分に怯む。名前ちゃんがこの場にいるってことは、彼女も合コンというものに参加するため。僕の独断で連れ出していいのだろうか。「そうだね、ごめん。もうちょっとだけここにいることにするよ」と彼に微笑み、名前ちゃんから離れる。きっと僕がこの場から抜けたらやりにくいんだろう。「吹雪は客寄せだ」なんて言ってたし。相手はお客様でもないのに。

自己紹介の順番が回っていく。男の方は先に済ませ、女の子たちが次々と自分について話していった。名前ちゃんの順番がやって来ると、彼女は消え入りそうな声で名前を言い、大学の学部などを言いのけた。どれも知っているものばかりだ。当たり前か。僕は名前ちゃんと恋人なんだから。全員の自己紹介が終わると、食べ物を注文し、お喋りが始まっていく。何だろうこの感じ。普通の合コンみたいだ。


「名字さんは付き合ってる人とかいるの?」
「え、あ、私ですか?」
「名字さんって可愛いよね。俺君みたいな子タイプだよ。ねぇどうなの?今、彼氏とかいないでしょ?」


少しチャラそうな男が名前ちゃんに声をかけた。見る目あるね、なんて冗談じみたことは言わないけど、僕にとっては少し面白い状況だったのかもしれない。目の前に恋人がいるのに、「彼氏いるの?」って聞くなんて。まぁ名前ちゃんの彼氏が僕であることを知らないんだから、無理もないよ。口元が綻ぶ。あぁそういえば僕、今名前ちゃんと喧嘩してたんだよね。帰ったら、全然気にしないって言っておこう。


「ねぇ名字さん。いるの、いないの?」
「わ、私、彼氏なんていませんよ」


え?
名前ちゃんの答えたそれに、頭が真っ白になった。いない、だって?どうして、そんなことを言うんだろう。きっと今、僕はすごく驚いた顔をしている。名前ちゃんの横に座っている女の子――彼女の友だちも驚いている。そうだ、名前ちゃんが言ってることは嘘なのに、どうして彼女は平気な顔をしているの?喧嘩している僕への当てつけ?君がそんな酷い人間じゃないって、僕が一番に分かってるはずなのに。だけど疑う気持ちは広がっていくばかり。どうしてどうしてどうして。君の中で、もう僕は恋人じゃないの?認めてくれないほど、気付かないうちに心は離れてしまっていた?

夢なら幸せになれた?
そう、夢なら幸せになれた。もう、何もかも手遅れだ。


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