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とりあえず、今日お前倉間と帰るんだからな。サッカー部が終わるまで、待ってろよ。いいな?
そんなことを言われたら誰だって嫌と言うに決まってる。私自身の部活がない日に何が悲しくて学校に友だちの部活終わるのを待ってなきゃいけないんだ。本当はえー、と言いたかった。だけど水鳥さんが相手だったら、その願いも塵のように消えていく。そう、例えるなら腹を空かせた蛇の前で縮こまる蛙。私いつかこの人に捕食されるかもしれないなんて不安さえ過るよ。あぁここまで来ると、倉間くんに会うことにさえ不安を感じてしまう。そんな時、誰かが私の名前を呼んだ。名字って。よく知ってる、だけどちゃんと話したことはない相手。

「え、神童くん?あれ、練習は?」
「今休憩中だ」
「あーなるほど。…こんなところで何してるの?」
「名字こそ、何してるんだ?」

あなたのところのマネージャーに命令…いや、言われて、ここで部活終わるの待ってるんです。と正直なことを話せたら楽になれたんだろうけど、多分神童くんに言っても「名字大丈夫か?」なんて反応しか返ってこないに決まってる。そもそも訳を話せるほど私は神童くんは仲良くないはず。多分今回で喋ったの3回目だ。1回目は「こんにちわ」、2回目は「どうも」だったはず。要するに接点がないというわけだ。

「あ、そうだ神童くん。ひとつ聞いてもいい?」
「何だ?」

神童くんは倉間くんと同じサッカー部で、結構モテる人だと聞いている。実際茜ちゃんの行動を見てきたわけだし。もしかしたら神童くんって女の子から差し入れとかもらうのかな。もし、本当に水鳥さんの言うとおり私が明日レモンの蜂蜜漬けを作ってきたとして、果たして倉間くんは喜んでくれるのかな?

「神童くんは差し入れにレモンの蜂蜜漬けとかもらったら嬉しい?」
「…誰かに贈るのか?」
「ち、違う!たとえ話として、聞いてみたいの!」
「そりゃ普通に嬉しいだろう」

誰から何かをもらうのって、そういうもんじゃないか?と静かに神童くんは語ってくれる。なんだかその顔が大人っぽくて、彼がモテるわけというのが何となく分かった。それにそう言ってくれると、まだ行動も起こしてないのに、少しだけやる気が起きてくる。ごめんなさい水鳥さん。私は今日倉間くんと帰らない。その代わり、おいしいレモンの蜂蜜漬けを作ろうと思います。


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