txt | ナノ

「これじゃあ帰れないかもね」


ぽつりと呟いたその言葉に、ユキメノコは不安そうに私を見あげた。ダメだ、この子の前でそんな言葉を呟いては。心配させるようなことを言っちゃダメだ。大丈夫、ここで私もユキメノコも死んでしまう訳じゃないんだから、何も怖れることなんてない。何かあれば、この雪山に詳しいユキメノコに協力してもらうだけ。遊びで作ったかまくらがこんなにも役立つなんて思ってみなかった。中は暖かく、外に出なければ、体温を奪われることはなさそう。雪山で一緒に遊ぼうとしたのはいいけれど、途中降り出した吹雪は、私たちの帰路を見失わせた。厄介な日に来てしまったものだと後悔しながらも、少しだけこの状況にドキドキしている。あぁ私ってなんて子供っぽいんだろう!

だけど刻々と過ぎていく時間にいち早く反応したのは、私のお腹だった。ぐぅ、と鈍い音をかまくらの中に響かせ、空腹感を煽る。横でユキメノコが少しだけ楽しそうに笑った。何だよ、そんなに私がお腹空かせた姿が面白いのか。私は全然面白くないけど。すると、突然目の前に木の実が差し出された。蒼い、一目見てオレンの実だということに気付く。差し出した先で笑うユキメノコは、頷いた。もしかして、食べろってこと?


「でもユキメノコ。オレンの実じゃ私、回復しないよ」


冗談を含んだその言葉を聞いても、ユキメノコは私にオレンの実を向けてくる。きっと今のこの状況で何を言っても、この子は聞かないだろう。ありがたく受け取った実を一口かじり、だけど広がった何とも言えぬ微妙な味に笑みがこぼれる。美味しい訳じゃないのに、嬉しくて明るい気持ちになる。横ではユキメノコが楽しそうにモモンの実を食べていた。私もそっちの方がよかったかも、なんて。

味はしなかったが、腹の足しになったことを思えば、もしかしたら1ヶ月ぐらいはこの雪山で生きていけるかも、なんて自信に満ちてくる。そうだ、ユキメノコと一緒なら、いつまでも、どこまでも生きていけるよ。
だけどじきに吹雪は止みそうです。



企画:こわくないよ様提出


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -