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「えーっと今日はた、楽しく盛り上がっていこうな!」
「まず、自己紹介から始めましょう?」
「…」
「…」


司会を務めてくれている人は、吹雪くんと同じサッカー部の人。1,2回話したこともある。私がまだ吹雪くんと気軽な関係にいたとき、サッカー部に差し入れを届けたことがあった。そのときと、あとは校内ですれ違うくらい。きっとこの場に吹雪くんがいるのは、そういう訳なんだ。彼に誘われたから。きっと、仕方なく来たんだ。本気で合コンが目当てだとするなら、私はどうしたらいいのかな。

明るく場を盛り上げようとする声は、寂しく消えていった。だけど決して彼は文句を言おうとしない。無理もない。原因は全て私と吹雪くんにある。きっと今の吹雪くんは心底機嫌が悪いんだろう。理由は色々あると思うけど、きっと私。さっきからずっと私のこと見てるし。睨んでるし。逸らせないことが何よりも苦しい。やっぱり帰りたい、今すぐにでもここを飛び出してしまいたい。だけどそんな勇気、私は持っていなかった。


「ごめん。僕帰るよ」
「え、吹雪、どうしたんだよ」
「用事思い出しちゃってさ。だからごめんね。…帰ろう、名前」
「え、う、うん」


不意に名前を呼ばれ、戸惑いを感じながらも心臓は一段と大きく跳ねた。名前を、今日初めて呼ばれた。もしかして機嫌直ったのかな。なんて軽い気持ちを抱くことさえ、今は許される状況じゃないようだ。小さく動く唇。背筋が凍り付いたような感覚。夜はこれから、という意味に取れるその瞳は、しっかりと私を捕らえていた。


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