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ガキの頃から仲良かった名前はいつもニコニコしとる奴やった。何かヘマしても、「えへへ失敗しちゃったー」と戯けて見せ、どんなに人にバカにされても「私バカだからなー」と笑っとる。どうしてそんなにへらへらしとるんやって考えたら、イライラして仕方なかったわ。昔それで悩んだ事もあるんやで?だけど、それもいつか消えてしまって、今じゃ普通に仲いい。ホンマに普通なんやで。普通に好きやし。…ちゃうちゃう、わいが言いたいんはそっちの好きやない。幼馴染としての好きや。誰に言い訳してんねんわい。
だけど名前がわいの知らんところでデカいもん抱えとることには、最近気づいた。ずっと一緒やったに、どんなに気づくの遅いねん。それで名前が悩んでることも知っとったんや。だけど言えへんかった。そんなの、面と向かって言えるわけ無いやろ。お前、人と違うんか?って。お前、人の感情、分からへんのか?なんて。無理や無理。わいには聞けへんて。だからいつか打ち明けてくれるときを待っとろうかなんて考えとったん。
せやけどいかんわ。わいの考えとる以上に、名前は追い詰められとった。今日メールが来たんや。『殺してください。家で待ってます』って。冗談抜きで、マジで来たんや。これはもう放っておけるような状況やない。名前が打ち明けるのを待ってるような暇ない。
殺して欲しいなんて、わいにそんなこと出来るわけないやろ。行かなあかん。名前の家に。止めなあかん。そうせんと、名前が壊れてしまうわ。





「名前。おるんか?」
「…マサキ、君」
「名前っ!何やこの状況、どうなっとんねん!」
「…自分で、死のうと思った。だけど、できなかったの。やっぱり私、マサキ君の手じゃなきゃ、死ねない」
「何馬鹿なこと抜けしてんねん!そんなの無理に決まっとるやろ!」
「…こんなこと頼めるの、マサキ君しかいない。お願いだから」


名前の家に着いてみたら、そこには手にカッター持って倒れとる名前がおった。まさか自分で……でも出来ひんかったから、わい呼んだなか。ホンマ昔っから手のかかる奴やったけど、今回もまた手強いことしてくれるわ。


「死ぬなんて止めろや。お前ばかやろ」
「…いいじゃん。私どうせ小さい頃から、“お化け”だったんだから。ほら私の体って、小さい頃から冷たい。もう、死んでるようなモンなんだよ」
「…知っとったわそんなこと。何年一緒におると思ってんねん」
「…え、」


意外だ、そんな顔しとる。何やその顔。わいが何も知らなかったなんて思っとったんか。だからお前はバカや言うてんねん。何だったら、全部話したろか。お前が“お化け”やないってことも、冷たくても“生きとる”ってことを。


「名前、ちょい手ぇ貸してみ」
「…何するの」
「ええから貸せ。いいから、首に当ててみ」
「…何、するの」


わいの手を名前の首に、名前の手をわいの首にそっと触れさせる。そこから伝わる確かな振動を、名前に感じてほしかった。わいも名前も、生きとるってことを。


「どくどく言っとるやろ?それが生きとる証拠や」
「………」
「普通どっかの探偵さんたちがみんな手首調べて生きとるか生きとらんか調べるみらいやけど、絶対こっちの方がええ。手首より、首の方がもっと感じやすい」
「…だから、何」
「お前が冷たくてもお化けでも、生きとるんやからなんでもええわ」
「私ずっと、マサキ君を騙してた。これからもずっと、騙すよ」
「気にせーへんて。嘘の笑いでも何でもええ。嘘でも本当でも、わい名前のことすきや。それに嘘も本当もないやろ?」
「…マサキ君…」


最後にわいの名前呼んで、名前は目から大量の涙を流した。その透明な粒を拭ってやっても、いくどもなく流れてくる。止められへんわ。あ、わいの服濡れるやないか!…まぁ今日は許したる。だけどもうこんなことよして欲しいわ。好きな人から殺して、って言われても、わいにはそんなこと出来へんから。
だからもう少し名前も気持ち楽にしたらええ。お化けだろうと冷たがろうと、わいがそばにおったるから。


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