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※吹雪視点


嗚咽の混じった彼女の声は、暗がりの中に消えていくだけ。行為が終わっても尚、名前はこちらに顔を見せてくれない。ずっと向かい合っていたのに、決して顔を見せてくれることはなかった。君の泣き顔も笑顔も僕は嫌いじゃないのに。たとえば名前と呼んでみても、首を横に振るだけ。声が聞きたいんだけど。
髪をそっと触って撫でても、小刻みに震える肩を抱きしめることは出来ない。ねぇいつから僕たち、こんなに余所余所しくなったの?


「ねぇ、名前。こっち見てよ」
「…」
「じゃあさ、声聞かせて」
「…いや」


こっち見てよ――いや。声を聞かせて――いや。キスしてもいい?――いや。じゃあもう一回してもいい?――絶対いや。
何を聞いても、どれを頼んでも帰ってくるのは拒絶の言葉ばかり。そんなんじゃ無理矢理しちゃうよ、って半分脅しのつもりで笑えば、すすり泣く声はどんどん増えるだけ。これじゃあ僕が悪者みたいじゃないか。
こんなにも求めているのに、どうして応えてくれない?おやすみ、と一言残し、僕はそのまま目を閉じた。真っ暗な視界の中で、「吹雪くん…」と呼ぶ声がする。どうしたの、とは聞かない。名前の言葉を待っていると、何もなかったように規則正しい寝息が聞こえた。どうして用がないのに呼ぶんだ。何かあるなら、呼んで欲しい。期待するから。


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