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「名前ちゃん。今日帰れるよね?」
「…ごめん。今日は私がバイトあるの」
「そっか。じゃあ先帰ってるから。待ってるよ」
「うん」


一緒に帰ろうなんて冗談だと思っていたのに。だから、あんまり期待しないようにしていたのに。講義が終わって部屋を出ると、そこには待ちくたびれたように少し疲れを滲ませた吹雪くんが立っていた。どうしてここにいるの、なんて聞いてしまいそうなのを抑えて、ちょっとだけ笑った。吹雪くんも何だか嬉しそう。きっと表面的な問題だと思うけど。
じゃあ先にね、と一言残し吹雪くんは行ってしまう。遠くなっていくその姿が、完全に視界から消えたのを確認して、やっと体が動き出す。何でこんな些細なことで金縛りなんて起きているんだろう。どうも私は吹雪くんが怖くて仕方ないらしい。仕方ないよね。もう取り返しつかない。
少しだけ自由になれた気がしたけど、そんなの時間が過ぎれば終わること。





「…ただいま」


バイトが終わったのは9時過ぎ。お腹が空いてるから体に力が入らない。家の明かりは点いていなかった。もしかしたら吹雪くんは疲れて寝ちゃったのかもしれない。そういえば彼、今日サッカー部はなかったのかな。一緒に帰ろうなんて言ってきたんだ。多分なかったんだろう。どちらにせよ、日々の疲れが貯まってるんだと思う。


「吹雪くん…寝ちゃったの?」
「………」
「寝ちゃったのかな」
「…寝てないよ」
「え、うわっ!」


寝室を覗き込んで声をかけてみても返答がなかったから、本当に寝てしまったと思っていたのに、暗闇の中から出てきた手に強引に引っ張られ、そのままベッドにダイブ。吹雪くんに覆い被さるような体勢になって、直ぐに頬が熱くなる。退こうと思っても、彼の力がそれを許さない。


「ふ、吹雪くん、起きてたんだね」
「…ねぇ名前ちゃん」
「何?」
「…今日、してもいい?」


単刀直入に切り出されたその話に、戸惑いを感じなかったと言えば嘘になる。だけど、首は横に振らなかった。縦に振って、受け容れた訳でもない。ただただ彼の瞳をじっと見て、次の行動を待つ。そっと触れた唇と唇から出た感情を思い知った。卑怯な私が大嫌いだ。


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