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「名字、あんた今日バイト行くの?」
「…行きますけど」
「そっか。じゃあ遅れるなよー」
「はい」


食堂で昼食を取っている間、先輩が何気な質問を投げかけてきた。そうか、今日はバイトの日だったか。とりあえず、という気持ちでやったバイトの先で出会った先輩とは時々一緒に昼食を取る。学部とか違うからあんまり会わないけど。でも私が一番交流している人ってこの人なのかもしれない。
全てを全て話せる訳でもないんだが。


「お前さ、この間バイト遅刻したじゃん?」
「…店長起こってました?」
「ううん、心配してた。あんた具合でも悪いの?」
「…全然」


具合が悪いことなんてないよ。年中無休で健康な私が、具合悪いなんて有り得ない。悪く言えばきっとバカは風邪を引かないっていうことわざが合うと思う。自分から自分を卑下するような真似はしないけど。
私が答えた後、少し出来た沈黙を破ったのは先輩だった。少しだけ自信なさげに、恐る恐る聞くような感じ。一体私に何を聞こうとしているのやら。


「もしかして、彼氏と何かあった?」
「え゛」
「ほらあんたの彼氏結構モテるじゃん?それのいざこざとか」
「ないですよ。そんなの」


ない、ないよそんなこと。
そうやって自分の都合のいい言い訳を聞かせて、心に積もった昨日の不安が思い起こされる。思い出さなくていいのに。先輩が変なこと言うから。ダメだ、こんなところで、涙なんて流しちゃ。


「名前ちゃん」


そんなとき、私と先輩の背後からいつもと変わらない優しい、彼の声が聞こえてきた。そっと私の名前を呼んで、近づいてくる。今日帰ってこなかったから大学には来ないなんて思ってたけど、流石にそれはないか。先輩が気まずそうに「じゃあまた後でね」とその場から抜けていく。この状況で2人きりなんて辞めて欲しい。


「吹雪くん…今日、来てたんだね」
「ごめんね。昨日帰らなくて。遅かったから、そのまま友だちの家に泊まったんだ」
「ふ、ふぅん」


友だち、ね。それ絶対女の子でしょ。そっちの方が居心地いいんじゃないの?いちいち私のところまで帰ってこなくていいのに、ご丁寧に昼食先輩との落ち着いた一時に声をかけてくるなんて。つくづくこの人って、何も思ってない。


「今日は一緒に帰ろうよ」
「…そうだね」


だけどやっぱり吹雪くんの誘いも、何もかも断れない。私には受け容れることしか出来ない。選択肢がひとつしかないなんて、悲しすぎるよ。ねぇお願いだから声をかけないで。優しくしないでよ。好きな子がいるなら、その子のところに行けばいいじゃない。お願いだから早く、私に「さよなら」って言ってよ。


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