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「は?友だちとか、冗談だろ」
「何処が冗談に聞こえたの」
「名字の言ってること全部」
「失礼な」

浜野は口をぽかーんと開けたまま、私を驚きの目で見ていた。何その、目の前に未確認物体が現れたのを発見したような顔は。そんな変なモノを見るような目つきは辞めろと言いたいところだが、浜野がそこまで驚く理由が分からない。

「浜野くん、もう一度聞くよ。何が冗談なの」
「名字って倉間の友だち?」
「だからそう言ってるでしょー」
「彼氏かと思ってたー」
「はぁ?」

今度は私が口をぽかーんと開け、呆けた声を出す番だった。何を言い出すのかと思えば。浜野くんは何も分かってないなぁはっはっは……。何ですと?彼氏?思わず殴りかかっていきそうな自分の体を押さえ、もう一度問いかけてみた。誰が誰の彼氏だって?、と。もし浜野が間違いをしているなら、訂正しておかなければいけない。じゃなきゃ、この先きっと大変なことが起こってしまうと思うから。

「わたし、倉間くんとはそういうのじゃないよ」
「じゃあ何?トモダチ?」
「だから友だちだってー。何度言えば分かるのー」
「じゃあ俺とは?」
「友だちー」
「同じこと、倉間にも言えんの?」

言えるよ。言えるに決まってるじゃん。心ではそう思っているのに、何でだろう。口に出すことが出来なかった。ほら、言えばいいじゃん私。「言えるよ」って。倉間くんと私は友だち。浜野と私も友だち。
本当に?
今まで一度も考えたことのなかった深い部分を、今更考えるなんて。友だちのはずなのに、友だちって言えないってどういうこと。そういえば最近、確かに倉間くんと友だちみたいな付き合いはしてない。この間一緒に登校した。だけど全然喋れなかった。この間一緒に帰った。だけど、すごくすごく気まずかった。もしかしてこれって、関係してるの?訳分からないや。
大きな謎を生んだ瞬間、次の授業の5分前を知らせる鐘が鳴った。浜野は教室に入っていってしまうから、私は自分の教室に戻るしかない。教室へ帰る途中、トイレに行っていた様子の倉間くんとすれ違った。少しだけ目が合ったけど、直ぐに反らして逃げるようにその場を去る。おかしい、やっぱり私おかしいよ。今までこんなことなかった。
教室では茜ちゃんが待っていた。おかえり、と言ってそっと優しく一枚の写真を取り出す。それはこの間倉間くんと一緒に帰ったときのものだった。私が独り項垂れていて、倉間くんが側で呆れた顔をしている。どうしてこの写真が今ここにあるのか分からない、多分茜ちゃんが盗さ…撮ってくれたんだろうな。
何だか、その一枚の写真を見るだけで恥ずかしい。どうしてこのときは普通に振る舞えていたんだろう。
茜ちゃんは少しだけ笑った。でもとっても優しい笑顔で。私に、そっと呟いてくれる。

「名前ちゃん。それは倉間くんに恋してるんだよ」


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