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頑張って入った大学には、王子がいた。
冗談じゃない。自分の目を疑いたいと思った。自分の耳を疑いと思った。だけど、この日本という国の北海道に、確かに彼は存在した。低く優しい声で女の子の心をどんどん奪っていく。その早さに感心を覚え、でもそれ程度だった。決して自分と交わるような人ではないと確信した。昔から表舞台では活躍しない、いわゆる影でひそひそと生きる私に、あんな人と話すことはない。ただ少し、憧れを抱く程度か。でもやっぱり結局はそれで終わる。
でも神様は今まで枯れた人生を送ってきた私をちゃんと見ていてくれていたみたい。哀れに思ったのか、どう思ったのか。そんなことは知らないけど、王子がやって来たのは私の住むアパートの隣。初めて交わした言葉は「同じ大学だよね。これからよろしく」だ。よく私のことなんて覚えていたモンだ。神様、ありがとう。





今、後悔しているようなことはありますか?
誰だろう、そんな無神経でくだらない質問を投げかけたのは。そうか、大学での後輩だったのかもしれない。どっちでもいい。後悔こうかいコウカイ。何度呟いたって、そんなの1年前に神様に感謝したことだ。
あの時、神様を恨んでいれば状況は変わっていただろうか。枯れた私の場所に、彼が来たことが最大のコウカイ。最大のフコウ。毎日が憂鬱。明日が来ることに恐れを感じる。誰か助けて欲しい。でも、助けてくれなくていい。一人見放されて死んでいきたいって思う。せめて、彼が私のことを見捨ててくれればいいのに。


「どうしたの?」
「…何でも、ない、よ」


不意に彼が私の顔を覗き込む。逸らせず、瞳をじっと見つめるしかない。だけど直ぐに諦めてくれた。「もう寝よう」って。
私は眠りたくない。明日なんて来なくていい。吹雪くんといる明日なんて、なくなっちゃえばいいのに。毎晩毎晩、同じこと考えて私は瞼を閉じる。


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