「苛つく」
何だ、どうしたんだ。とナノが聞き返す前に手元にあったクッションを投げつけた。普段ノーコンなのに、どうしてこういう時だけちゃっかり顔面に命中してしまうんだろう。受け止めないナノもナノだけど。
クッションを退けるなり鋭い目つきで私を睨み付ける。怖い、だけど怯むわけにはいかないの。今日はここでケリをつける。
「ナノにはっきり言ってもらいたいことがある」
「何だよ」
「私のこと好きなの、嫌いなの」
「ぶっ」
そんなにも意外だったのか。私の質問に飲んでいたコーラを吹き出すナノ。だけど容赦しない。「どうなの、ねぇ答えて」と尚も追求する。咳き込みあーだのうーだの狼狽えるけど、やっぱり今日は答えるまで帰してやらないことにする。絶対、何が何でも、これだけは答えてもらおう。
「バカじゃねーの」
「バカはナノじゃん。いっつも怒ってばっか。私もう分かんない」
「じゃあ分からせてやるよ」
そう言うとナノはぐいと私の体を引き寄せ、強い力で抱きしめた。そのあまりにも強い力に苦しくて痛くて、バカみたいなことで苛ついていた自分が惨めに感じて悲しかった。だけど耳元でそっと「名前、好きだよ」って呟いたのを聞いて、安心と羞恥が駆けめぐっていった。
嬉しいけど、普段言わないその言葉を言うなんて、ナノも結構意地悪だ。だけど答えくれたことが、何よりも大きなことだったと思うの。
ナノくんが珍しくデレた。