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少しでも彼の力になりたいと願った、少しでも彼の疲が取れればいいと思った、誰よりも彼のことを一番に考えたつもりだった。殺風景な部屋に少しでも見栄えがあれば、少しでも彼の心を明るくさせられると幻想を抱いた結果がコレ。がしゃん、と鋭い音を立てて砕けたガラスの瓶。中に生けていた花は鮮やかに彩ることなんてない。ただ寂しく、そして悲しく散らかるだけ。どうしてそんな乱暴なことが出来るの。仕方ないことに私は問いかけた。無駄なことなのに。破片を片付けよとすれば頭の上から氷のように冷たい声。「結構です。出ていって下さい」と。とても冷たい。


「私の部屋に花なんて飾らないで下さい」
「…嫌いですか、ランスさんは」
「…生憎ですが、大嫌いです」
「少しでもランスさんの癒しになればいいと思ったんです」
「何の言い訳ですかそれは」


鋭い目、冷たい声。今日もランスさんはいつもと変わらない。だけど瞳の奥に秘めたその色を見て、後悔したのは私だった。
ごめんなさい、一言では済まされない謝罪に何も答えない。応えが返ってくるとは思ってなかったけど。それでも言わなきゃいけない気がした。取り返しのつかない状況がごめん。
だけどランスさんは「もういいです」なんて厳しい一言。じゃあもう二度とあなたの部屋に花を置いてはいけないですか。じゃああなたは仕事などの疲れを、何処で吐き出していると言うんですか。応えて欲しかった。


「知らなくていいです」
「どうして」
「何も知らなくていい。何もしなくていい。名前は余計なことは控えること。あなたに望むことでこれ以上はありません」
「…邪魔、ってことですか」
「その逆です」


矛盾を含んだ応えを残し、ランスさんは部屋を去っていった。どうしよう。ランスさんの言ってることの意味が分からない。だけど何でか嬉しい自分も分からない。とりあえず部屋に散らかってしまった割れた瓶を片付ければ何とかなるのだろうか。
誰か、真相を教えて欲しい。ランスさんは分からない人だ。その人の側は心地いいのは事実だけど。


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