txt | ナノ

ああ、なんでこんなにも俺の手は震えているのか。ちくしょう、全く意味が分からない。
電話をかけて、用件を伝えたら、切ればいいだけの話だ。
それだけなのに、何をこんなにも緊張して躊躇しまくってるんだ俺は。俺らしくもない。
ポケモンバトルでさえ、こんな緊張感味わった事ねーよこんちくしょう。
大丈夫だ。伝える内容は頭の中に完璧に仕込んである。
チラチラと時計を伺いながら、ポケギアの画面をじっと見つめる。あと少し、あと少しで日付が変わる。日付が変わる瞬間に、電話をかけてあいつに伝えるんだ。間違っても他のヤツに先を越されてはいけない。
ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、ポケギアを操作する指を動かしていく。
「名前」と表示された画面にひどく緊張感を走らせながら、日付が変わったと同時に通話ボタンを押した。
プルルル、という無機質な機械音が耳に響く。
1コール、2コール、3コール…繰り返されるその機械音に、高まった緊張感が徐々に脱力感に変わりつつあった。
まあそりゃあ、こんな日付が変わるような時間帯だし、起きてる訳ねーよな。うん。完全に脱力感が俺を襲い苦笑をしながらポケギアを切ろうとしたその時、それは聞こえてきた。


「グリーン、どしたの?」


出んのかよ!


「おお、おう、名前」


なんか頑張ってみたけど緊張を隠しきれてない俺。
うわ、だっせぇ。


「おう、じゃなくて。」
「いいいや、その、あのさ」
「うん。どーした?」


え、何なんだよこれ。
たった五文字の言葉を伝えるだけなのに、普通の会話よりレベルが高いんですけど。
どくんどくんどくんどくん。
おいどうしたよ俺の心臓。なんか太鼓みたいにうるせーんだけど。誰だ俺の心臓で太鼓の〇人とかやってるヤツは。俺か。
つーかリズムにすら乗れてねーよ。爆発すんぞコラ。


「…あのさ、きき今日、お前の誕生日だろ」
「ああ!そうだったね。自分で忘れてたわ」


ポケギアを握る手にきゅっと力を入れて、もう片方の手汗が滲んでいる手にも力を入れた。
もう、頭の中に仕込んでいた内容は白紙に近い。
出だしから吃るわ頭の中真っ白だわ、俺カッコ悪すぎるだろ。泣きたい。
せめて名前の前では、カッコ悪い姿は見せたくなかったのに。…好きなヤツの前では。
こんな姿を見せるはめになるとは、電話なんかするんじゃなかったと少しだけ後悔。


「よく覚えてたねグリーン!もしかしておめでとう電話?なーんてそんな訳…」
「………そう、だけど」
「だよねえ。んなありえな…うええぇぇえ!!」


ポケギア越しに聞こえてくる、叫び声のような名前の声。
そんなに驚くような事かよ。さすがにこの俺でも傷付くぜ。


「え、えっ!?どういう風の吹き回しなの!?」
「べっ…別に、そういうんじゃなくて俺はただー…」


1番最初に、「おめでとう」って言ってやりたくて。
結局こんなカッコ悪い形になってしまったけど、それだけは伝えておきたくて。
喉まで出かかっていたその言葉は、名前の言葉によって遮られてしまった。


「…なーんちゃって。すごーく嬉しいよグリーン」


ああ、カッコ悪い姿だろうが何だろうが、今の俺にはそれだけ聞ければ充分だ。
おめでとうと言ったそのあとすぐに聞こえてきた、「ありがとう」という名前のその言葉に、俺がガッツポーズをしたのは言うまでもない。


伝えたくて、
カッコイイ事を言う俺は、来年に期待してください。



サキさんから誕生祝いでもらいました。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -