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彼の家に行くと、大抵彼はパソコンの前に座っている。それは、仕方ない話だ。それが彼の仕事で、きっと彼にとっての居心地のいい場所。私は、パソコンの機能とか全然分からない。彼の話に付いていきたくても、付いていけない。

だけど、これでも努力はしたんだよ。いつもパソコンの前にいて、家事をあまりやろうとしない彼の代わりにご飯を作ることだけが役目なんて、そんなのつまらない。私だって彼と話したいって思うし、追いついてみたい。
だから今日は、いつもより一段と眠いの。


「おぉ名前、そこにおったんかい」
「うん。ごめん邪魔した?」
「いやええで。わいもそろそろ終わるころやった」


そう言って彼は――マサキは、振り返った。私を見るなり、にっこりと笑う。私もつられて笑った。何してるんだろう私たち。
とりあえず「お昼食べた?」と聞けば「…まだやわ」と返ってくる。どうせ、そんなことだろうとは思った。きっと仕事に熱中しすぎて、忘れたんだ。これだから、私のご飯係は抜け出せない。ここ最近、家に来てはマサキの生存確認をして、ご飯を作って――私、一応あなたの彼女なんですけど。決して、母親ではないんですけど。

でもそんな私一人が思っている文句を言ったところで、それただの我が侭。忙しいマサキに我が侭言って困らせたりなんかしたくない。出来ない。
悪女になりたい訳でもないんだから。


「なぁ名前、お前なんか疲れとらへん?」
「え、疲れてるように見える?」
「なんか目がしょぼしょぼしとるように見えるわー」
「………」


半ば合っているその言葉に、少しだけ怯んだ。やっぱり分かるのかな。マサキってすごいな。いつもパソコンの前にいるだけあるよね。


「マサキっていつも半日はパソコンの前にいるよね」
「…そんなにおるんかなぁ。あんまりわいは考えてへんわ」
「そうだよ。私ちゃんと計ってる」
「計っとたんかい!」
「だから、私も同じことしてみたの」
「は?まさかお前……」


心配そうに私を見るマサキは、やっぱり頭がいいんだと思う。マサキが想像してることを、私は昨日1日かけてやってみた。
要するに、私も半日パソコンの前に座っていたの。マサキ程パソコンで作業はしなかったものの、それでもちょっとはマサキの行為を見習ってみた。
そしたらこれだ。目がしょぼしょぼ。普段から使っている訳じゃないから、これは私にしてみればかなり応える。まぁ自分からしたことだから、全然いいんだけど。
理由を話せば、マサキは青ざめた顔で私の肩を掴んだ。何されるの私。


「何でそんなことしたん?!バカやろお前!」
「だって、マサキと同じ気持ちになってみたかったから」
「ならんでええわ!ほんっと、バカやお前。呆れた。それで自分から目ぇ疲れさせて…昨日家に来なかったのはそういう訳かい」
「でも流石マサキ。パソコン慣れてる人は、慣れてない人が目をしょぼしょぼさせると分かっちゃうんだね!マサキに言われたとき、私びっくりしちゃった!」


私が笑顔で褒めると、キッと目をつり上げ、マサキが睨んできた。あれ、もしかして反省しろってこと?私に反省の色が見えないから?
だって自分からしたことだし、別に反省とか関係ないと思うんだけど。
一人で言い訳を重ねている私に、マサキは言った。


「わいが分かったのは、お前がわいの彼女やから!」


今からマサキにそんなこと言われて、鼓動が速くなる。どうしよう。マサキにはっきりとそんなこと言われたの初めてかも。
当分、ご飯係でも我慢しよう。そう思って、改めてこの気持ちを確認した。マサキが心配してくれるような存在でよかったな、と。


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