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足早にストレイライズの森を抜け、日が傾くころにはダリルシェイドに戻っていた。
人々が賑わう街に目もくれず、早々に王のいる謁見の間へと足を運ぶ。
するとそこにはドライデンやヒューゴ・ジルクリストが既に謁見の間にいる。
すかさず事の運びをフィリアが神殿での始終を王に報告をする。
暫くすると兵士から巨大な荷物がカルバレイス方面へと海を渡っていったとの情報が入り、王からの勅命が下される。

「リオン・マグナスよ、レイ・スターレイズを除くそこに控える3名には神の眼の奪還を言い渡す。至急カルバレイスへ向かうのだ!」

「えっ?レイは一緒じゃないのか?」

すかさずスタンが疑問をぶつけるが、

「彼女はとても優秀な科学者だ。君たちは残念だろうが、私たちも彼女の手が長期に無くなることは惜しい」

「…スタン、残念ながらここまでです。また、兵士になったらこの任務のお話を聞かせてください」


予想していた範囲だ。
私はそもそも休暇の中で今回の事件に関わってしまった身。
ヒューゴ様が間髪入れずに意見した通り、なのだ。
王の勅命を命じられる程の身分は持ち合わせてはいないが、正直いうと少々名残惜しい所だ。

しかしまあ、この任務が終わったころには彼はなりたかったダリルシェイドの兵士でいる事だろう。
その時まではしばし我慢をしようではないか。



謁見の間を出、緊張した面々を各々が崩す。


「では、私はこれで。短い道中でしたがありがとうございました。
皆さまが帰ってくるまで、ソーディアンの研究に没頭します」


「折角腕が立つのに勿体ないわね〜こんなスタカンより全然頼りになるのに!」

「貴様も人のことは言えんがな」

「なーーんですって!っぎゃあっ!!!!!」


「おっ!」

「ちょっと何すんのよ!レイも……って何でそんなキラキラした目で見てんのよ」



「いや、それ私が作ったものなので。リオン様、使ってくれてありがとうございます。
ルーティ、ティアラきれいでしょ。まだそれぐらいじゃ死ぬことはないから。それじゃあ!!」

「はっ!?ちょっと、あんた待ちなさーい!」




「…?」


ルーティの怒号を背に逃げるように城から出る。
だが先程、聞きなれない声がどこからか声が聞こえたような気がするが…気のせいか。
自分の家へと足を運び、今日一日で起きた内容をざっとノートに殴りこむ。
また別のノートには、ソーディアンの考察結果。また晶術についてを書き込んでいく。
まだ休暇中だが(強制的な)、こんなに有り余る研究材料があるのに家にいるわけにはいかない。
兄弟たちとよく喧嘩していた何年か前の自分には考えられない話だな、と思いにふけつつも明日も早いと言い聞かせ、簡単に支度を済ませ、眠りにつく。






早くも朝になり、また缶詰になってもいいように身なりには十分配慮し、自宅を出て研究所へ向かう。
研究所の鍵を開け、しばらくするとレイノルズが入ってきた。そして人を見るなり、一つ、軽いため息をつく。


「レイ、おはようございます。貴方の話で研究所は持ちきりでしたよ」


「レイノルズ、おはよう。ただ単に休暇を有意義に使おうと思ってた矢先の話ですよ。気になさらずに」

「貴方は色々と事を運んでくる人間ですね。まるで何かの運命に導かれているのではないですか?」

「運命、ねえ……随分科学者が言うには欠陥がある言葉ね」

「まあ簡単な言葉の綾ですよ。ストレートに言うと、厄介事を呼ぶ体質です」


「…運命の方が良かったわ」

軽口に乗せられる皮肉は、彼の専売特許だ。決して嫌味が込められているものではないのは、付き合い自体長くはないがよく分かる。


…しかしまあ、運命に導かれる、ね。きっとそれは“彼ら”の事に違いない。
ソーディアンという生きた歴史の産物を持ち、神の眼の奪還をする。
この世界に影響が及ばぬうちに、彼らが任務を遂行せねばならない。
簡単に表せるが物凄い現実だ。たった一日だが彼らと共にできた昨日をなんだか誇らしく思う。



「…ともかく、私はまた新たに研究を始めるわ。何か手伝ってほしい案件がない限り、また好きなようにさせていただきます」