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「そろそろ神殿ですね」

「ああ…だが妙だな。人の気配がない」

「ええ、普段なら巡礼客で賑わっていますが…とても静かですね」


もう神殿は目と鼻の先だが、明らかに人の気配がない。
はやる気持ちからか、早足になり一足先に神殿へ向かう。



「っ!…これは……」


「レイ!いきなり走るなんてどうしたんだよって…ひ、人が死んでる!?」

「ひどいことを…」


各々が苦い表情でこの惨劇に目を奪われる。
巡礼客達が大量の血液を流し倒れている。近付いて触れてみると体温のぬくもりは感じず、手遅れだということを悟る。

「…敵がどこかに潜んでいるかもわからない。慎重に奥に進むぞ」

「わ、分かった!」

「あ、あの!!誰かいるんですか!?」

扉の奥から声が聞こえ、咄嗟にスタンが反応する。

「中にいるんですね!大丈夫ですか!?」

「は、はい。私は司教のアイルツと申します。中には何人かいますが皆無事です!」

「待っててください!今開けますから!!」

スタンは力任せにその扉をぶち明けようとするが、びくともせず。

「開かない…!なんでだよっ!」

「おい科学者。どうなんだ。この手の理解はあるだろう」

「ええ…。アイルツ司教。このドアは何かしらの結界が張られていると考えていいですよね。
結界石はいくつあるのですか?」

「仰る通りです。神殿内のあちこちに恐らく5つ散らばっているはずです。その結界石を壊せば…」

「承知しました。では破壊してきますので、しばし待っていてください」


「…ということです。客員剣士殿、どうしますか?」

「一々全員で行動するのは時間の無駄だ。二手に分かれて破壊する。
スタン、ルーティ、マリー、お前らは右手だ。僕と科学者は左手に回る。すべて破壊したらここに集合だ、いいな」

「わかった!ルーティ、マリーさん!急ごう!」


「さて、私たちも向かいましょうか」

「…時間が惜しい。僕の足手纏いにはなるなよ」

「承知しました」


すぐに進むと空中に浮かんでいる結界石らしきものを見つけ、破壊をする。
すんなり破壊をするとすぐさまモンスターに襲われる。

私は愛刀の村正を右手に握り目の前のモンスターに居合切りですり抜ける。
レンズに変わるソレを横目で見、次の獲物をしとめる。


なんなく周辺の結界石を破壊し、先程の扉の前で待つと、間もなく他の3人もやってきた。

「よし!これで開くはずだ!」

スタンが扉を開けると少しやつれた司教が目に入る。

「アイルツ司教、早速ですが事の事態の詳細を…」

「……はい、突然、反乱を起こしたグレバム大司教がモンスターを引き連れて神殿内を襲ったのです。
その際にマートン大司祭も命を落とし…」


扉の中にいた方達は多少の憔悴は見られたが命に別条はないようだ。
アイルツに連れられ、私たちは神殿深部へと向かう。
奥に進んでもなお、死体は次々に転がっており特にスタンは顔を一層歪めていた。
まあ無理はないだろう。この状況は普通ではない。中には見るに耐えがたい死体もある。
長い廊下を渡り、いつの間にか最深部と思われる場所で突然アイルツが崩れ落ちた。


「なくなっている……神の眼がない……!」

「神の眼!?」

「なんだよ、ディムロスにレイまで。そんなに盗まれちゃヤバいものなのか?」

書物で確認していた程度だが、まさかこんな所で保管してあったのか…
神の眼は天地戦争という戦の中の象徴だ。その歴史の張本人達のソーディアンが驚愕するのも当然だ。
神の眼一つで世界のすべてが変わってしまう力があるものだ。そんなものが自分たちの時代からずっと時が経った今で尚、
形を変えず、存在一つで事を大きくしてしまう。
事の重大さを恐らくソーディアン達がマスターに説明しているのであろう、ルーティから「レンズ!?」と
場に似合わない凛々とした声が響く。
先程のグレバム…と言ったか。奴が盗んだものに違いないだろう。
何気なくあたりを見回すと、こんな場所に違和感のある女性の石像がある、これはもしかすると……


「フィリアッ!?」

道具屋で大量に購入したパナシーアボトルを一つ、石像に向かって振りかけるとみるみると髪の毛に若草色を取り戻し、
肌は白く、だが血色のいい色つきに戻る。

「待ってくださいグレバム様っ……あれ…、私は…アイルツ様…?」

「フィリア、落ち着きなさい。貴方は石にされていたのです。ここで何があったのかしっかり説明なさい」

「はい…グレバム様が突然神の眼を持ち出そうとしたのです。それで、わ、私は」

「御託はいい。僕たちには時間がない」

リオンが睨めつけ、フィリアと呼ばれる女性が怯えるが、実際に起きた事の重大さは国宝が盗まれたとかいうレベルではない。
(誰かと比べているわけではないが)その事については彼女もよく理解できているであろう。ぽつぽつと、語り始める。

「客員剣士殿、焦ったところで仕方がありません、一度セインガルドへ戻りましょう」

「待ってください!私も、同行させてはもらえないでしょうか」

「敵とどこまで内通しているか分からない奴を誰が連れていけるというんだ」

「そんな…」

「おいリオン、そんな言い方はないだろ!」

「そうよ!石にされてたのに敵とグルなんてありえないわよ!
あんた、そんな事言うけど、そのグレバムって奴の顔とか知ってんの!?」

「っち…勝手にしろ」

「あ、ありがとうございます!」

「敵のことを様付けで呼ぶようなら、その時点で貴様を切るからな」


そう言葉を吐き出し、早々に踵を翻す。
フィリアはというと、綻んだ顔を結び、客員剣士の後を追う。

静かに、鈍く鳴る秒針を胸に感じ、私も同じように彼らを追うように神殿を後にする。