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「でも、なんでレイはあの時の王様の勅命が覆って私たちと行動を共にすることになったんだ?」

「そうですわね…。レイ様は科学班に必要な存在ですのに…」

「言い過ぎですよ、フィリア。私のような小娘なんていなくてもあの場所は常に回っていますから。 それに、私色々ありまして、オベロン社の派遣社員になったんですよ」

「はあ!?あんた科学者しながらオベロン社なんて…どんだけ出世街道歩んでんのよ!?」

「ルーティ、落ち着いて。しかし凄いな、武術もあってやはりレイは只者ではないんだな」

「何故だ」

話を端折ったからか、客員剣士殿だけは不快感を前面に出して私を見やる。

「色々ありまして、と言ったじゃないですか」

「だから何故だと聞いている!ヒューゴ様が認めても僕が認めない。この任務の指揮官は僕だ」

「…客員剣士殿は頭が固いですね。まあ百?は一見にしかずです。次の戦闘で私の実験成果をお見せします」

「…イレーヌ、最近変わったことはないか」

「あるわよ、港から出るレンズを積んでいる船が必ず武装船団に襲われるの。被害は少なくないわ」

「丁度いい。そいつらは僕たちが仕留める」

「いくらリオンくんでも無茶よ!リオンくん達に何かあったらヒューゴ様に合わせる顔がないわ!」

「問題ない。僕を誰だと思っている。それに、僕たちがやられたら、その科学者風情の責任だからな」

「私ですか?随分責任が重いですねえ」

「まあ、そいつがやられたとしても、僕が倒れる筈はないからな」

客員剣士殿はイレーヌさんに無理矢理話をつけ、船の手配をしてもらう。

なんだか私ってとても損な役回りにされてしまったみたいなのか、と溜息が零れる。
やられるつもりは更々ないが、科学者を馬鹿にされるつもりも微塵もなく、「客員剣士殿、私と勝負しましょう」と声をかけてみた。

「勝負だと?くだらん」

「くだらなくなんてないですよ。貴方は私を気に食わないみたいですが、私も貴方が科学者を馬鹿にするのは許せません。
簡単な事です。武装船団をどっちが多く沈められるか、試してみませんか?」

「随分貴様にとっては不利な条件だな」

「やってみないと分かりません。乗りますか?」

「…いいだろう。貴様はすぐにでもダリルシェイドに戻ってもらう」

生意気な、どっちがだ、なんて視線を思い切りぶつけていたらスタンがとりあえず、アイスキャンディー食べないか、なんて言ってニコニコと笑いながらその場の空気を宥めてくれた。

確かに、私に食いついてきた客員剣士のせいで他のみんなが困っているだろうな、 なんて思い、少しだけ反省をする。結果、みんなアイスキャンディーを食べて一息つき始めた。

私の分は勿論無いが、フィリアが「一緒に買いに行きませんか?」と誘ってくれたので有り難く一緒に買いに行くことにした。
それによって、女性陣は一緒に着いてきてくれることになって、一時イレーヌ邸を出ることにした。



「レイ、あんたなんでこんなの作ったのよ。このティアラのせいで私がどんだけ酷い目に遭っているか…」

「いやいや、これは罪人用のティアラですから情けは無用ですので!でも、可愛く出来てるでしょう?」

「ああ、私はとても気に入っているぞ」

「本当ですか!?何てったって、テーマは"可愛くてえげつない"ですから」

「…あんたの頭は相当イカれてるわ」

「いや、私より頭が可笑しい人なんてザラにいますよ。それよりも、フィリア、その剣は、ソーディアンですか?」

「はい!クレメンテ様とは、ダリルシェイドを出てから海竜の中で出会ったんですの」

「海竜とは…これまた興味をそそられます……。初めまして、クレメンテ、レイ・スターレイズです」

と、挨拶しても、特に返事は伺えない。晶術だけ手にしても、やっぱり素質はないのか。
ルーティがこんなエロジジイに挨拶するだけ無駄よ、なんて言っているが、やっぱり少し悔しかったりする。

晶術だけ出来てもダメなのか。まあ、後は私に足りないものを補っていけばいいか、と自己完結するといつの間にか広場に着き、 お目当てのアイスキャンディーの店を発見する。

どうしようかな、なんて思うも結局は好物のオレンジを選び頂く。冷たくて美味しいな、と思っていると、 マリーさんが桜の花びらを見ながら何か物思いにふけてるようだった。
気付いたルーティも「何か思い出したの?」とすかさずマリーさんに話しかけていた。


「いや…ただ、この景色と似たものを見たことがある気がして……」

「この花は桜です。もともと、アクアヴェイル公国の樹木になっていますが、気候が良い場所なら植樹して簡単に育つものです。 ノイシュタットの気候もとても温かいので綺麗に咲き誇っているんでしょうね」

「あんた随分桜に詳しいわね」

「あ、いや科学者なんで」

「ふーん。随分頭が宜しいことで。マリーはアクアヴェイル出身なのかしら?」

「んー…。でもあの国は鎖国が今に始まったことじゃないから可能性は低いんじゃないですかね?」

「確かに…この桜を直接見た感じはしない…。ありがとう、みんな」

「何かまた思い出したら言ってね、マリー。さ、レイもアイスキャンディーを食べ終えたことだし、戻るとしましょうか!」

「フィリア、誘ってくれてありがとうございました。みなさんも着いて来てくれて嬉しかったです」

「あんた、明日アイツに勝てる訳?変に余裕綽々ね。あんな奴に負けてほしくはないけど…」

「ルーティ、私だって負ける気はありません。信じてください」

「…分かったわ。あと、敬語やめなさい。堅っ苦しいの嫌なの」

「それは癖なのでどうかな…でも、頑張ります」

女性陣とは少し距離が縮まったみたいで嬉しくなる。何笑ってんのよ、とだらしない笑みが出てたみたいでルーティに軽くどつかれる。

痛い、と漏らすとティアラの仕返しよ、と返され何も言えなくなってしまう。 そんな光景を見てマリーさんとフィリアが笑っているので、まあいいか、と思えてしまった。


この旅を終わらせて溜まるか、と決意を固め、イレーヌ邸に戻ることにした。