※夢主死にそうなので苦手な方はブラウザバック推奨




頼むから、お前は逝くな。

悲鳴みたいな声でジャンが言う。私は抱きしめられるがままにされていた。痛い。強く抱きしめられてその腕が痛いのかそれともジャンの叫びで胸が痛いのかそれとも怪我をした場所が痛いのかいまいち良く分からなかった。切なくて刺すように甘い痛みだ。

そもそも今の今まで私が生きてこれたのが偶然なのだからどこか現状に納得さえしていた。ジャンの前で巨人に食われるのが夢だなんて言ったのはいつだったか。あのときのジャンは面白いくらい滑稽な顔をしていた。まるでおもちゃをとられた子供みたいな。彼は馬鹿みたいに正直でずるい人だ。ミカサのことが好きなくせに私がいつまでもずっと傍にいることは疑わずに親友だなんて甘い言葉で縛り付ける。好きだと言っても冗談だと信じてはくれない。それならいっそのこと目の前で食われながら好きだと言って死んでみたら恋仲になれなくても彼の大切な人になれなくてもきっと忘れられない人になれたはずだ。それなのに蓋を開けてみたら、奇行種に呆気なく足だけ食われて屋根の上。人生って上手くいかないものだなと自嘲する。

「ゆめ、か…なわなかっ、たなー……」

呟いてみたら思ったよりちゃんと言葉にならなくて気管がひゅうひゅう音を立てた。何も言うなとさらに強く抱きしめられる。もし今ここに、同じくらい怪我をしたミカサがいたらジャンはどうするだろう。やっぱりミカサを選ぶかな。自分で考えておいて悲しくなったのでついまた笑ってしまう。しっかりしろ、と彼が軽く頬を叩いてきた。

「セシリア…頼む……俺を置いてかないでくれ」

震えていた。声も、身体も。ああ泣いているのかと分かった時には甘い痺れのような痛みが全身を襲った。ジャンが今ばかりは私のことを思って泣いてくれているのだ。馬鹿みたいに幸せだと思った。置いてかないでだなんて子供みたいな、弱弱しい彼。愛おしいなあと思う。守りたいなあと思う。傍にいたいなあと思う。

「し、にたく…ない…なあ」

「お前は、お前だけは…絶対にっ…死なせるもんかよ!」

彼が叫んだ。体が離されて寒さが身にしみた。血が出すぎたのかもしれない。ジャンが私の両頬に手を添えたと思ったらガチッと歯がぶつかった。とことんジャンらしいなあと思って笑ってしまう。「笑ってんじゃねーよ」彼が泣きながら怒る。忙しい人だなあ、なんて。でもそうやって表情がころころ変わるのが好きだったんだなあって思い出す。そのうちに今度こそ唇が重なって私は不思議な気分だった。きっとこの人は私が居なきゃダメなんだろうなあなんてちょっと思いながら。

「死ねないなあ……」

当たり前だろ、と言ってジャンはぐしゃぐしゃの顔で立ち上がると私を横抱きした。

「すぐ治療すれば間に合う。だから少しの辛抱だ」

ぼろぼろ泣きながらジャンが言う。

「ね…ジャン…」

ゆっくりと手を伸ばしてシャツを掴む。視線がぶつかる。彼が口を開いた。

「好きだ」

彼がもう一度唇と額に口付けをしてくれた。彼の涙で私の顔までぐしゃぐしゃに濡れる。でも悪くない。

「わたしも」

「……知ってたっての」

ジャンの嗚咽がこぼれる。そんなに泣いてちゃ前も見えないよと言いたかった。

ミカサじゃなくて、お前が、セシリアが好きだ。嗚咽を堪えてジャンがしっかりとそういった。

「気づいたら、…お前のことばっかり気になってた」

でもお前みたいに素直になれなくて意地張ってたんだ、って。なんで今まで言わなかったんだろうなあ、なんて彼が言う。夢みたいな台詞。ジャンは嘘をつけるような器用な人じゃない。きっと不器用な彼はタイミングが分からなかったのかもしれないなと自分に都合がいいように考える。でも多分当たっているはずだ。私は嬉しくて嬉しくて目頭が熱くなった。指先にまでその甘い痺れがやってくる。泣いたらジャンのせいだ。気づくの遅いよ、と憎まれ口を叩いたらいつもみたいにうるーせよとは返してくれず、代わりに「ほんとにな」と泣くように彼が答えたから可笑しくて笑ってしまった。彼が屋根を蹴る。




「……セシリア?」



遠くで彼の声がする。ぴりぴりとした痺れが瞼までやってきて、彼が安全なところに運んでくれている間はちょっと寝ていたい。寝るなと駄々をこねるような彼が可愛い。それでも瞼はどんどん重くなっていく。子供みたいで本当にうるさいんだから、なんて、でもそんなところも可愛く思う。ねえ、ジャン。起きたらいつもみたいに好きだって言うから、歯のぶつからないキスでもしよっか。


130528


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