※現パロ



「セシリア、今日こそやるぞ!」

「…ええ、また?もう無理しなくていいよ」

そういう訳にはいかねえだろ!なんて拳を握ってコニーが目をきらきらさせる。私は嬉しいのと、申し訳ないのと、それからやっぱり今日も無理なんだろうな、なんていう諦めが混ざった不思議な気持ちでありがとう、と返した。

いつもどうしてだか眠れない私のために、コニーはいつだって一生懸命一緒に起きていようと頑張ってくれていた。1人で真っ暗な夜に膝を抱えて皆の寝顔を思うのは凄く寂しかった。だからコニーが一緒に起きててやるよって言ってくれたとき、最初はとても嬉しくて、嬉しくて、悲しかった。彼は色々考えてくれたし、いつも傍にいてくれようとした。だけどやっぱり人間だから、悲しいかな、いつも私をおいて寝てしまうものだから、彼に無理を強いているようで悲しさでそのうち一杯になった。それでも彼は諦めない。私はとうに今日も無理だろうな、なんて失礼なことを考えているのに、だ。だから余計に寂しくて、悲しくて、それなのに彼の隣はあたたかいのだから、もうどうしていいか私には分からなかった。

眠れなくなったのはいつからなのか、正直なところ覚えていない。多分だけれど特にこれと言って理由は無い。悪夢が怖いわけでも、忙しいわけでもなかった。ただ変わらず息をして1日の終わりと始まりのその境目が溶けていく感覚だけはそっとあたたかい。今でこそ寝れないだなんて思っている私も昔は普通に寝ていたと思うし、むしろ馬鹿みたいに寝ていたと思う。

「あのな、やっぱり今までは方法が悪かったんだよ」

「そうなの?」

「そうに決まってんだろ!なんてったって、俺は気合だけは十分だからな」

腰に手を当てて大きな目でコニーが言う。確かに言葉通り気合はいつも十分だった。それでも眠くなるのが普通なのだから彼はもうそろそろ私なんかほっといて寝てしまったほうがいい。私の考えなんてお構いなしに彼がぺらぺらと喋る。

「羊は数えてるうちに途中で数が分かんなくなるしよぉ、喋ってても眠くなるもんは眠くなるし、夜通し食うのも無理があるし、映画もテレビも気付いたらいいとこで寝ちまってるんだもんなー」

「言われてみれば、いろいろ試してきたね」

「だろ?でも今回のは絶対大丈夫だ!お前が、もし地球がひっくり返って寝ちまっても俺はぜってー起きてる!」

「……おお、いつになく自信満々」

「カッキテキなの思いついたんだ」

そうなんだ、と相槌を打つ。けれどその後彼はそれを実行することなくいつもみたいに缶ジュースを片手にソファに座って私を隣に呼んだ。私も缶ジュースを片手にソファに座る。何か面白いの、とかぶつぶつ言いながらコニーがテレビをつけてチャンネルを矢継ぎ早に変えていった。一巡してから落ち着いたのか、そういえば昔CMで見たことのある、映画を見ることに決めたらしい。プルタブに手を掛け力を入れると気の抜けたような音がした。

しばらくして、映画も中盤に差し掛かった頃、これからがいいところと言うのにやっぱり彼は自分の言うとおり眠くなってきたらしい。あの大きな目がゆるゆると閉じられそうになって、はっとしたように見開かれる。それを何度か繰り返していて、少し可愛い。でも申し訳ないことには違いないのでとんとんと軽く肩を叩いた。

「コニー」

「…んぁ!…やっべぇ…寝るとこだった…」

「無理しなくていいよ、もう寝たら?」

「じゃあお前も一緒に寝ようぜ」

「…んー…私はもう少し起きてる、かな」

「…そっか、んじゃちょっと待っとけよ」

彼はいつもより少し大きめの伸びをすると気合を入れるように頬をぱちんと叩いて立ち上がりどこかに消えていく。顔でも洗いに行ったのかな、無理することないのにな、と落ち着かない気持ちで画面を見つめる。映画はあんまり頭に入ってこなかった。私ってなんで起きてるんだろうな、と時計を見て溜息をつく。早いところ寝てしまえばいいのに、眠いのに、どうして寝れないんだろう。

「これでどうだ!」

突然の大きな声にびっくりして振り返る。コニーが腕を組んで足を肩幅に開いて仁王立ちしていた。それも、目を瞑って。私は呆気に取られて暫く彼を見ていたけれどそのうち可笑しくなってとうとう吹き出してしまった。

「はははっ…!ちょっと、なっ…なにそ、ははっ、なにそれ!」

とうとう我慢できなくなっておなかを抱えながら笑ってしまう。息がしづらくって少し涙が出た。目じりを袖で拭いながらもう一度コニーを見る。

「大成功じゃね!?お前笑いすぎだけどな!」

「だ、だって!おっか、しいでしょ!」

まだ笑いは止まらない。コニーは目を瞑ったままだ。ようやく目を開いてまたソファまでやってくると勢い良く私の隣に腰を下ろして、目を瞑って勢い良くこっちに顔を向けた。

「ちょっと待ってよ!それ、反則だから、ははははっっっは、はっ!こっちみないでよ!」

「イケメンだろ?」

げらげら笑う私にコニーが顎に手を添えてかっこつけのポーズを取る。それがアンバランスで可笑しくってしょうがない。なぜかって、コニーの瞼にはマジックペンでぐりぐりと目玉が書かれていたのだ。それもまつげバシバシの、きらきらした一昔前の少女マンガみたいな目なのだからこれが笑わずには居られない。

「もー、いきなりなんなのさ、はは」

「これで俺は寝ても寝てないだろ!」

「え?」

「見とけよ、ほら、目開けてたら俺が起きてるし、目瞑っても俺が起きてる」

「…うわ…あほらし…」

「あほらしってお前…あーちょい待て、うわなんで泣くんだよ!」

「……コニーは最強の、あほだなあ」

「まあ否定はできん」

そこは否定するところだよ、って言おうと思ったのにうえって変な声が出て結局涙も飲んでしまってしょっぱい。ぶっさいくだなあとコニーが言うからそんなへんてこな目のコニーよりはましなはずなんだけど、とこっそり心の中で言い返す。

「よーし、寝転がるぞ!いいか、寝るんじゃねぇ、寝転がるだけだ!」

そういいながら彼がぐいぐい手を引っ張るので袖で涙を拭きながら鼻を啜って立ち上がる。文字通り2人で布団に寝転がった。泣いたせいか、目をこすってしまったせいか、真っ暗なのに目がちかちかする。コニーの欠伸が聞こえて、ああ、もう寝なきゃ、おやすみって、言ってあげなきゃ彼はいつまでも頑張っちゃうんだと気付く。それでも寝てしまったら朝起きて、ごめんなって眉を下げて笑うんだろう。彼のあんな寂しそうな残念そうな顔はもう見たくなかった。だから、言ってあげなきゃいけないんだ。

「コニー」

「んー?」

「……なんでもないよ」

「そっか。ま、今日はずっと起きててやるからな」

にしし、と悪戯好きの子供みたいに彼は笑う。そのときに彼がそうやって笑ってるほうが好きなんだと改めて思ったから、今度は言えそうだと口を開いた。

「…コニー」

「なんだよ」

「おやすみなさい」

「…おう、また明日な」

「うん…。うん、また明日」

そのうちに彼はいつもどおり規則正しい寝息を立て始める。鼻先がつんとした。ゆっくりと目を閉じる。寝れなくたっていい、夢も見れなくていい、ただあたたかい、幸せそうに眠る彼の隣で、息をしていることがどうしようもなく幸せなんだなとじんわりと瞼が熱を帯びる。私達には、また明日、があるんだ。コニーのふざけた瞼の落書きを思い出して少し笑って、そして少しだけまた泣いてしまった。


130724


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