※現パロ同棲ネタ



どんっ、と腰への鈍い衝撃ではっと覚醒した意識が事態を把握するよりも早く私の身体は床へと叩きつけられていた。あまりの痛さに悶絶する。ひとしきり悶絶したところでようやく事態の把握が完了した。天井が高い。私はのそりと起き上がってベッドにずるずると這い上がる。とりあえずむぎゅっと隣で寝ていたジャンの頬を思い切りつねった。

「…んあ?いっ!いってぇええ!」

彼ががばりと起き上がったのでぱっと手を離す。彼の両足は明らかにスペースを取りすぎだった。

「こっちの台詞!また蹴られて落ちたんですけど!」

「…はぁ!?知らねぇよ、朝から大声出してんじゃねぇうるせーな!」

お互いベッドの上でにらみ合う。ふん、と鼻を鳴らしてベッドから降りて立ち上がり洗面台へと向かう。家はそんなに広くないのでどこに居ても割りと話が出来るのはいいところでもあり悪いところでもある。

「あークソこのアバズレ日曜だってのに9時だぁ?もっと寝かせろっての」

「こっちの台詞って言ってんでしょーが!」

私は顔を洗い終わってタオルで拭きながらベッドの方へと顔を向けて叫ぶ。うるせーよと相変わらずのジャン。また1日が始まったなあと肩を落としながら今度はキッチンへと向かう。フライパンを置いてコンロに火をかけると、のそのそ起きてきたジャンが後ろを通って洗面所へと向かっていった。

「ジャン、今日も一段と凄い寝癖だね!」

「お前が寝かせてくれねーからだろ」

「よく言うよこの発情馬め」

「おい待て馬ってなんだよ」

「いやまずツッコミどころってそこなの」

「それ以外になにがあんだよ」

顔を洗い終わったらしいジャンがタオルで拭きながら台所に入ってくる。寝癖はついたままだ。今日は1日家でごろごろするつもりなのだろう。たまにはどこかに遊びに行きたいと思っても今更デートに行こうなんて誘えるわけもなく、たいてい休日は家で2人だらだらするのが定番だった。

「ねぇ、上ちゃんと着たら?」

また上裸かこの人は、と呆れつつ先ほど入れたバターの良い匂いがしてきたところで卵をフライパンに割る。適当にオムレツでも作ろう。

「別にいいじゃねーか。つーかお前なんでヤッたあとさあ服着て寝んの?意味わかんねーんだけど」

「私お腹出して寝たら風邪引くもん」

「ガキか」

「ガキですー。誰かさんは看病してくれそうにないんで自衛しなきゃ」

「誰かって誰だよ」

「心当たりがあるならそういうこと」

サラダも作ろう。冷蔵庫をあけるとトマトとレタスがあった。凝ったものが作れる訳じゃないけれど野菜は欲しい。

「あ、ジャンお皿とって」

ガラスの、と言うとへいへいと気の抜けた声で彼が器を2つ渡してくる。それにバランスよく切った野菜を盛ってジャンに押し付ける。彼はそのまま器を手にダイニングの方へと歩いていった。うっかり焦がしそうだったオムレツはぎりぎりセーフでさっと形を整えてフライパンを持ち上げ皿を棚から取り出しうつす。さてもう1個とバターを敷き直したフライパンに卵を割って、ついでにさっき開いたときに気づいたヨーグルトとバナナと苺を冷蔵庫から取り出して、フルーツを切って小さな器に盛り付けてからヨーグルトをかける。それからまたオムレツの形を整えて皿にうつしたら完成だ。まあこんなところだろう。トースターに2枚パンを突っ込んで一度皿をトレイに並べてダイニングへ向かう。

「はいーできたよ」

「腹減ったー…あれ、パンとかは?」

「今焼いてる」

ジャンの前にオムレツとヨーグルトを置く。ふあ、と欠伸をした彼が椅子から立ち上がるとコーヒーメーカーの前でがりがり頭を掻きながらマグカップをセットした。カプセルをセットしてスイッチを押すといいコーヒーの香りがした。湯気がのぼる。彼がその取っ手を掴んだところでトースターの音がして私はまたキッチンに戻る。いい感じの焦げ目だ。バターを塗って皿に並べてダイニングの机に置く。座って待っているとマグを手にした彼がやっぱりのそのそやってくる。

「ん」

「あ、ありがとう」

ずいっとマグを差し出されてそれを受け取る。あったかい。ふーと息をふいて一口飲んだ。熱いけれど目が覚める気がした。

「じゃあいただきます」

「いただきます」

私が手を合わせるとジャンも手を合わせる。野菜はなかなか新鮮で冷たくて美味しい。オムレツの焼き加減もなかなか。トーストはもちろん普通に美味しいしヨーグルトもあって充実している。彼は料理について文句を言ったことは無かった。ただいつも食べきってくれるので特にまずくはないのだろうなと思う。

食べ終わって皿をシンクに持っていくと彼も同じように皿を下げにきてくれる。こういうところは意外とマメな人だ。皿を洗い始めた私の後ろからごちそうさま、と声をかけてくれるのも不器用だけど優しい彼らしい。

洗い物が終わってダイニングの方へ戻ると彼の姿は無くてあーやっぱりベッドのほうか、と向かう。案の定ベッドの上で枕を背もたれに雑誌を読みながらくつろいでいる。まったくぐうたらしているだけなのに様になるんだからちょっと悔しい。

ベッドに上がってジャンの隣に座って雑誌を覗き込む。

「何見てんの」

「んー…」

ぐでっと彼の肩に頭をもたれさせてみたかったけれどいつも彼の肩の方が明らかに高くて断念する。今日も今日とてそうだったので仕方なく二の腕の辺りに頭を預けた。彼は集中するとなかなかこっちに帰ってこない。今もすでに雑誌の方へ集中しているらしく特に反応は無かった。ちぇ、っと思いながら彼の顔を見上げる。構え構えと視線を送ってみてもやっぱり反応は無くて馬鹿らしくなったのでベッドから降りて部屋着から私服に着替えることにした。

天気もいいし、オシャレしたらちょっとくらい興味を示してくれて一緒に外に行こうなんてことにならないかな、と期待しつつ着替えてはみたものの、部屋に戻るとちらっと視線を上げたジャンがもう一度雑誌に視線を落としてから「どっか行くのか」と声をかけてくる。興味なさすぎ、と半ば呆れつつ「ちょっと」と返して出かけることにした。


130611


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