「とりあえずシャワー浴びて来たら?」
「あぁ…」
「緊張してる?」
「何せ、男とやるのは初めてなもんですから」
「だよなぁ。大体さ、お前抱くって言ってるけど、俺がタチだったらどうすんの?」
「……最悪の事態として覚悟はしてきた」

 しかめっ面で鉢屋は答えた。その表情が普段から遠くかけ離れていて思わず笑ってしまう。

「酷ぇ」
「いや、この世の終わりみたいな顔するからさ。残念ながら俺はネコ。てか、こんなナリしてタチとか引くだろ」
「全くだ」
「良かったじゃん。最悪の事態免れて。ほら、これ」

 バスローブ(脱がせやすくていいという昔の男の置き土産)とタオルを渡して洗面所に放り込む。緊張しているのはこちらの方だ。大きな不安と少々の期待、そして一抹の哀しみ。罪悪感までがひたひたと忍び寄ってきて思考を停止する。
 程なくして戻ってきた鉢屋は、大分いつもの調子が戻ってきたらしく、にやりと頬を歪ませていた。

「交代。シャワー浴びて来る。冷蔵庫にビール入ってるから景気付けしたいなら。あ、あと逃げるなら今のうちな。ベッドの上で逃げられたら流石にへこむから」
「ん。飲みたいけど酒の勢いにはしたくないからいい。ちゃんと待っててやるよ」
「はいはい」

 いつになく饒舌な自分に辟易しながら風呂場へ向かった。鏡に写った顔は、かなり引きつっていた。




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