大学からアパートに真っ直ぐ帰る。帰って何かやることがあるわけではない。けれども、何をする気も起きない。
 鉢屋は、昔好きだった男に少しだけ似ていた。髪の色が明るいところ。煙草混じりの甘くない香水。飄々とした掴み所のないところ。だから勘違いをしたのだと自己分析して、自己嫌悪する。大体、似ているのは本当に少しだけで。髪の色は金髪と薄い茶髪、煙草の銘柄は違うし香水も違う。掴み所のなさはふにゃんとした感じではなく、皮肉げだ。ああまた自己嫌悪。よくもまぁこんなに覚えているものだ。どちらの男も均等に。
 頭を振って全て追いやり、代わりに面倒な課題のことを考える。余計なことを考えないためには丁度いい。レポート用紙とノート、テキストをローテーブルに広げて煙草に火をつけた。





 吸殻が五、六本増え、八割方課題が終わった辺りでチャイムが鳴った。こんな時間に来客の予定はなし。無視しようかと思ったが、15秒置きくらいで何度か鳴らされ根負けした。

「よぅ」

 苛立ち込みで少し乱暴にドアを開ければ、薄い茶髪。思考に合わせて動作が停止した。

「とりあえず、入れて」

 返事を待たずに軽く押し入る鉢屋に、何も言えない。そもそも何を言ったらいいのか。こいつはノンケで俺はゲイで。何より一度こいつは俺を拒否した。違う。拒否されたんじゃない。でも、互いに相手を認識するそのベクトルが異なることは分かっているはず。
 一度しか来たことがないはずなのに、正に勝手知ったるという様子で、鉢屋は床にちんまり(なぜか正座)腰を降ろした。

「何の用?」

 立ったまま、煙草に手を伸ばす。無意識のうちにフィルターを噛み締めてしまい、舌打ちの代わりに乱暴に髪を掻き上げた。鉢屋は仕草だけで座るように促す。

「何だよ」

「俺、お前のことが好きかもしれない」




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