それから、久々知は数日間大学に出てこなかった。俺も、連絡をとろうとはしなかった。会ったのは一週間後で奴は俺を完璧に無視した。だから俺もそういうものかと近寄らなかった。
 久々知が日常生活の中から消えた。けれども何が変わる訳でもなく。こういう話にありがちな、女に勃たなくなりました。とか、抱いているときに久々知の顔が…(正直これはかなり心配した。何せ洒落にならないくらいの女顔だ)もなかった。


 ただ


 ふとした瞬間に思い出すのだ。あいつどうしてるんだろう。とか、彼氏はできたのか。とか。傷付けてしまった罪悪感。いっそ、あのとき抱いてやればよかったかとまで思い、思考を打ち消す。きっとそんなことをすれば、もっと傷付けてしまっただろうから。
 それでも、あの透明な涙が、どんなにか目に焼き付いて。
 そんな自分に嫌気がさして、とうとう古い友人に相談した。





「それは恋だよ」

 ファミレスで、パフェを綺麗に完食した雷蔵が言った。

「いやそれはない」
「何で?」
「あいつは男だ」
「それは関係ないよ」
「いやあるって。根元的な問題だ」

 君は頭が堅いんだから。笑って雷蔵は言った。同じくらいの軽さで、もうちょっと食べようかな?とメニューをめくり始める。

「いやいや雷蔵さん?これ、凄く大事なことだと思いますよ」
「だって…あ、済みませーんこの三種ケーキセット一つ下さい。考えてご覧よ。その久々知君?が、女の子ならどう?好かれてるって分かってて、いつもその子のこと考えちゃって。傷付けたことが心残りで。それって恋じゃん」

 確かに、久々知が女ならそうすんなりと考えられる。

「…でも、好かれてる訳じゃないかも知れないし」
「だって泣いたんでしょ」
「……それにいつも考えてる訳じゃない」
「お前が僕に相談するなんて、よっぽどのことだと思うけど」
「でも、男を好きになることなんて」
「何にでも初めてがあるんだよ。あ、ケーキ来た。いただきます」

 煩悶する俺を、ケーキを頬張った雷蔵がニコニコしながら見詰めた。

「いいから素直になれって」

 素直になんか、なれっこない。




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